Taste of the Spider
自分で作ったものながらなんと不味い食事だろうかと手にしたボウルを眺めて溜め息をつくアリスターの肩を、つんつんと何者かがつついた。
どうせまたソロナがこのゴミ・スープの味について文句をつけようとしているに違いない。億劫そうに振り向いた彼の眼前に、巨大なクモが口を開けていた。
八つの目が「じゃあ、いただきます」とでも言いたげにアリスターを見つめている。
「うわああああっ!!」
座り込んだままガサガサと後退りする姿を笑うかのごとくクモの体が揺れる。その震動で篩にかけられたように体が縮んで形を変えてゆき、ぐにゃりと歪んだ次の瞬間アリスターの目の前には笑い転げるソロナの姿があった。
「そこまで驚くかね、ビビリのアリスター君!」
「振り向いていきなり巨大クモが口開けてたら驚くに決まってるだろ!?」
小心男、無神経女と罵り合う二人の声がキャンプに響き、目を吊り上げたモリガンはスープを持って少し離れた自分のテントに避難した。他の仲間たちは皆もういつもの事だと諦めてそれぞれ食事に集中している。
未だショックから立ち直れない心臓のあたりを撫でて宥めて、アリスターは相棒のグレイ・ウォーデンをねめつけた。彼女にからかわれるのはしょっちゅうだが食事中の悪戯だけは許しがたい。例え口にするのがまずい自作スープであっても貴重な憩いの時間だというのに。
大体ソロナは最近モリガンに教わったという変身魔法をやたらめったら使いすぎだ。あれは絶対に戦術ではなくオモチャとして気に入っているに違いない。
基本的に何もしないあの荒野の魔女はまったく、たまに働いたかと思えば余計なことしかしやしない、ただでさえ面倒なソロナにこんな厄介な遊びを教えやがってと口の中でモゴモゴ悪態つくアリスターを白けた様子で眺めると、ソロナは手にした杖を掲げてみせた。
またクモに変身するのかと慌てて身構える彼を腹抱えてゲラゲラ笑う彼女。わりと短気なウィンも騒音に耐えかねてテントに引っ込んでしまった。
「あーっ、もう頭にきた! 戦場でいきなりクモだのクマだの出てきて驚かされるのはなんとか慣れるようにするけど、キャンプで変身するなよ! 何の意味もないだろ?」
魔法ならせめて戦いの場で役立てろと説教するアリスターに、反省するどころかふんぞり返ってソロナが言うには、こうだ。
「飯時に変身するのは良い活用法なんだぞ。クモの味覚ならあんたの飯でも美味しく感じる」
それって失礼なんじゃないかしら。クモに対してかい? なんて暢気なレリアナとゼブランの会話も耳に入らない様子で、アリスターは本気で衝撃を受けていた。
「こ、これが美味く感じるのか? すごいな」
「何でも美味いよ。ゴミでもミミズでもアリスター飯でも」
「うわあ、羨ましいような羨ましくないような……」
されども美食が極端に不足しているこのパーティ、何食ってもゴミ食っても美味というのは得難い恩恵なのである。俺もその魔法ほしい、無理だしあんた魔法消す側だし、魔道士ってヤツは本当に小狡いなぁオイ、うるせえテンプラ野郎、なんだと背教者!
さらなる盛り上がりを見せる掛け合い、夜も更けたというのに一向に静まる気配のないガキウォーデン二人。我慢の限界がきたモリガンによって荒野仕込みのコーンオブコールドが炸裂した。
翌朝、あのウィンが犬猿の仲であるモリガンに頭を下げて変身魔法の教えを請うという珍しい光景を目撃し、終始寝ていて顛末を知らないオグレンが驚愕した。おいしい食事というのは誰にとっても、プライドなんかよりずっと重大事なのだった。
騒動への不介入を貫いたスタンがマバリに餌をねだられる横、ウォーデン二人は朝陽の中でまだ凍っていた。