ダリアン×エリッサ
俺がテントに入るとエリッサは裸だった。見るなり頭が真っ白になって何の用で訪ねたのか忘れてしまった。とうのエリッサはと言えば俺に素肌を見られたことなど気にも留めずに平然と剣の手入れをしている。服を着てからやれよな。
入る前に声をかけなかった俺も悪いんだろうが、どっちでも同じだったろう。彼女は貴族だ。公爵の娘、今は流浪の身だがいずれは王に次ぐ高貴な地位につくものとして育てられた。だから少し、価値観がおかしいんだ。
べつに羞恥心がないわけじゃなかった。ただそれが俺のようなやつには働かない。
見られても平気な相手、性の対象にならない些末な存在。絹のベッドに裸で眠り、翌朝起こしに来た使用人に体を見られたところで彼女の名誉になんら傷がつかないように、俺に見られても「男に裸を見せた」うちに入らないのだ。
「……しっかし、もうちょい危機感は持った方がいいんじゃねぇのか」
「何の話だ?」
「あんたが気にしないのはこっちも眼福だから嬉しいけどさ、理性ぶっ飛ばして襲ってくるやつだったらどうすんだ」
実際、色白で程よく肉付いた彼女の身体は金を出してでも触れるだけ触れたいと思う男が大勢いるくらいに美しく。見られた彼女が感じなくても彼女を見て感じる男はいくらでもいるのだから。
いまいちピンときてないらしいエリッサに歩み寄り、彼女の顎を掴んで上向かせる。紅を落とした唇に口づけた。夕食の時に飲んだワインが微かに香った。
「珍しい。どうしたんだ? 構ってほしいのか」
「おい、ガキじゃねぇんだから……」
未だなお平静そのもののエリッサに俺はがくりと肩を落とした。肌を露にした女が、男にキスされたってのにそれかよ。
「言いたいことは分からないでもないけど、私に無体な真似をできる輩なんてそうそういない。無理矢理に押し倒せるほどの相手ならくれてやっても構わないしな」
「そういうことじゃねーんだけど」
並の野郎じゃ敵わない相手なのは分かっている。無頓着でいられるのは無防備になれるだけの強さがあるからだ。でも、だけど、いやしかし。要するに、自分がまったくもって彼女の“対象外”であると思い知らされるのは腹が立つ。
エリッサの手から剣を引ったくり、剥き出しの肩を掴んで押し倒した。抵抗もせず余裕の笑みを浮かべた唇にもう一度触れる。こいつ、俺が男だと思ってないんだろうな。これだってただの無邪気なじゃれあいに過ぎない。ああ腹が立つ。