セロン×エイデン
蒼白な顔をしたエイデンは珍しく寡黙で、よれよれと力なく後をついてきた。足取りは重い。俺はたびたび立ち止まって彼を待たなければいけなかった。
毒矢が彼の身体を掠めたのは数刻前だ。すぐに傷口から血を吸い出したので命に別状はない。なるべく早くキャンプに戻って、しばらく安静にしていれば回復するだろう。
かつん、と硬い音がして振り向き、思わず眉をひそめた。少し離れたところでエイデンが右手に握っていた剣を取り落とし、呆けたままそれを眺めている。
「おい、しっかりしろ」
「……ん、ああ。ぼうっとしてた」
「それは見れば分かる」
「あはは、そうか」
無意味に笑いながら彼は剣を拾い……損ねた。柄を握る指にうまく力が入らないようだ。おかしいなと首を傾げて何度も試すが、剣はそのたびに彼の手から滑り落ちた。
体内に残る微量の毒素が手足の先を痺れさせ、動きが鈍くなる。やはりこのまま歩き続けるのは無謀か。解毒剤でもあればよかった。生憎と手持ちの薬草は使い果たし、薬を作る道具もない。出発前の不備を今になって悔やんでも仕方ないが、どうしたものか。
カランカランと無機質な音が続く。彼の手から剣が落ちるたびなぜだか妙に嫌な気分になった。鉄の転がる音が、岩にぶつかる音が、不快で堪らない。仕方なしに剣を拾い上げてやり、彼が提げている鞘に差し込んだ。
「どうせ使えないんだから抜いていても無意味だろう。しまっておけ」
「うーん」
「ついでだ、少し座って休め」
休めというのに周囲を警戒し始めるエイデンの手を引っ張って木陰に連れていく。この重さ。いざとなっても俺が担いで逃げるのは無理だろうな、などと考えながらその場に座らせた。
「はあー。ついでのついでに、悪いけど水筒をくれないか」
「ああ」
顔が赤いのは毒のせいか、それともみっともない姿を見られて恥ずかしいのか。エイデンにその類いの羞恥心があるとも思えないからきっと前者だ。とすると、かなり身体がつらいに違いない。
言われるまま水筒を手渡しながらも気にかかる。剣も握れないのに自分で水を飲めるのか? 彼の動きを見守っていたら、案の定だ。水をこぼすどころか栓を抜くことすらできずに唸っている。
「あ〜〜もう、力が入らなくて嫌になる」
「……貸せ」
彼の手から取り返した水筒の栓を抜き、傾ける。自分の口に水を含んだままエイデンに口づける。キスではない、と内心で言い訳しながら。
俺を茶化す気力もないらしく彼は黙って受け入れた。飲み干しきれなかった水が唇の端から溢れて、それも袖で拭ってやった。
不愉快だ。飄々として掴み所のない普段の性格にもよほど苛々させられるが、こんな風に戦士としての力をなくした姿を見るのは無性につらい。
「まだ飲むか?」
「うん」
与えてもらうのを待ってるばかりの殊勝な人間じゃないだろう、お前はもっと傲慢で勝手気儘で自由奔放で、人を弄ぶのが好きな不愉快極まりない男のはずだ。
エイデンらしくない。気持ち悪い。再び口移しに水を飲ませてやりながら、この得体の知れない衝動も彼の中へ流し込んでしまえたらと願った。