アリム×エリッサ
キャンプの隅でエリッサが寝ていた。この人は貴族だというわりに野生児じみたところがあって、時々こんな風にテントを使わず地面に寝っ転がって丸まっている。ほとんど犬みたいだ。
何気なく近寄ってみた。月明かりに照らされたエリッサの顔をよくよく眺めると……彼女は泣いていた。声もなく静かに、眠ったまま涙を流していた。
なぜだろう、胸を衝かれる。エリッサの高慢な性格を知っているから意外だった? いや、そんなことじゃない。
これは見てはいけないものなんだ。誰も見つけてはならないエリッサの心の秘密なんだ。不意にそれを暴いてしまったから、罪悪感に締めつけられる。
幼子が孤独から身を守るように丸くなって、物陰に一人で眠る。現実で抱くあらゆる感情から隠れて、夢に縋って泣いている。夢を見るのは少女の頃に還るただ一つの手段だ。彼女の求めるものはもうヴェイルの向こう側にしかないはずだから。
こんな無防備に涙を流すのはエリッサらしくない。他人に見せていい姿じゃない。フェイドでしか暴かれないはずの彼女の本質、育ちや性格や建前やプライドをすべて剥ぎ取られた彼女の魂そのもの。
それを断りもなく見てしまった。そのことに、思いの外ショックを受けている自分にまた驚いていた。
「……さ……ん」
「え?」
「…………」
辛うじて聞こえなかった小さな小さな寝言は誰を呼ぶ声かと、つい考えてしまう。父さん? 母さん? それとも……それとも、単なる寝息だったのか。きっとそうだ。気のせいだったと思っておくのがいい。彼女にとっても、僕にとっても。
なるべく音を立てず気配をおさえて、エリッサのそばにしゃがみこむ。月光を弾く涙の跡に羽根よりも軽くキスをした。ヴェイルを超えて労りの気持ちだけが彼女の魂に届けと願う。
泣かないで。それは心にしまっておいて。あなたがその涙を訴えたいのは、それを見て胸を痛めてほしい相手は僕じゃないだろう。
エリッサの涙は悲しいほどに透明で、僕は動揺してその味すら分からなかった。