ungainly handwriting



 ファーガスから近況報告の手紙が届いている。デネリムは俺がいなくても何も問題ないんじゃないかなあ、とか思っちゃうほどすべてが滞りなく動いているようで、手紙の中では政務のことに一切触れられていない。引っ張り出されたアノーラが不機嫌極まりなくて怖いとかアムシーンの勉強は順調だとかそんなことばかりだ。
 そしてどうやらファーガスもこの家を知ってるらしく、『小父さんたちによろしく』とある。小父さんって、あのブドウ畑の持ち主のことだよな?
 無理な交渉して二ヶ月間も借り上げたのかと思うと尋ねにくかったが、エリッサの馴染みっぷりから考えてもこの家は元々クーズランド家と関係があるんだと思う。他の国じゃなくアンティヴァだってところからなんとなく想像はつくけど、それはそれで気軽に聞いていいものか迷ってしまう。
 エリッサは黙々と手紙の返事をしたためていた。そばでじっと見ていて初めて気づいたんだが、書くのがやたらと遅いな。以前デネリムとアマランシンで文通していた時にも、じっくり丁寧に書かれた字がなんだかエリッサっぽくないなと思ったもんだ。実際に書くところを見ると文面から察する以上の慎重さで筆を進めている。
 字って結構そいつの性格が出るからな。彼女のイメージからすると流れるようにスラスラ書き上げて、決して気張っていないのにそれで様になってるような字体を想像していた。どっちかというとファーガスの方が読みやすくて感じのいい字をさらっと書く。意外だ。
“兄さん、無事に着きました。――エリッサ”
 いくらなんでも無愛想すぎると思う極々短い手紙を書き終わるのに一体どれくらいかかっただろうか。とてつもない苦役を終えたかのように重苦しい溜め息を吐いて彼女はテーブルに突っ伏した。
「お、お疲れさん?」
「疲れた……」
 これっぽっちの一文、わざわざフェレルデンまで届けさせるのも申し訳ないというか人件費がもったいないと思うんだけど。後で俺も何か書き足しておくか。ついでにこっそり買ったアンティヴァ限定“フェレルデンの救世主グッズ”もエリッサにバレないうちに送っとこう。
 薄っぺらい紙切れ一枚の短い手紙を見るともなしに見つめていたら、俺の目線に気づいた彼女はなぜだかちょっと頬を染めて「見るな」と紙を引ったくった。
「短いわりに、すごく丁寧に書くんだな?」
 受け取った側からすると、この簡潔さは「なんか怒ってるのか?」と思ってしまう。ちなみに経験談だ。エリッサは自分の書いた短い一行をじっとりと睨みつけ、子供染みた仕種でそっぽを向いた。拗ねているらしい。
「私は字が下手だから。急いで書くと不恰好になる」
「へ? 字が下手って、全然そうは見えないけど」
「母さんに叩き込まれたからどこへ出しても恥ずかしくない字を書けるようになったんだ。でもこれくらいゆっくり書かなきゃすぐ崩れる。挨拶状だって……文面を考えるのは得意だけど、私が書くと滑稽になる」
 まあ確かに、言葉だけ飾り立てても字が汚かったら逆に格好がつかないかもしれない。彼女は口がよく回るんで尚更だ。というかエリッサの字はどう見ても完璧に綺麗なんだけど、あれっぽっちの短い文章を人に見せられる字で書くのに数十分。そりゃあ長い文章なんて書けないよな。
「お前のこと何でもそつなくできちゃう生まれながらの淑女だと思ってたけど、実はおふくろさんが苦労したんだなぁ」
「アリスター、私を“生まれながらの淑女”だと思ってるなんて、私が何十人の家庭教師を泣かせて辞めさせたか知ったら卒倒するぞ」
「何……十人」
 桁が違うぞ、おい。でもそれくらい抜けてるとこがあった方が可愛いと思う、なんて口にすると絶対怒るだろうから黙っておく。そして今後彼女には手紙を書かせないことにした。



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