sweets junkie



 納屋の屋根が壊れたというので修理をしたら、近所のおばさんがケーキを焼いてくれた。クリームがどっぷり乗ってチョコレートがたっぷり入った激甘ケーキだ。ほんのりチーズ風味。エリッサは家に入るなり鼻腔を直撃する香りに顔をしかめた。
「頭が痛くなりそう……」
「贅沢の極みって感じだよな」
「常軌を逸している」
 真顔で呟くエリッサに思わず笑った。彼女は甘いものはあんまり得意じゃない。嫌いってほどじゃないが、同じ贅沢品でも胡椒の利いたピリ辛な料理を好む。俺は甘いのが好きだとか辛いのが好きだとか今まで特に考えたこともなくて、何でも腹におさめるものがあるだけで満足すべきだと思ってたが、ここへ来てから自分が甘党だって気づかされた。
 ケーキってこんなに甘いもんだったかなぁと思う。腐らせないために砂糖を盛りまくった辟易しそうな甘さとは違う、ふわっと蕩けるような儚い幸せの味がする。アンティヴァ料理は危険だ。味覚がおかしくなる。脳をダメにする甘味。そりゃアンティヴァ男の口から吐き出される言葉も甘くなるってもんだ。
 これが晩飯とばかりにパクつく俺をげんなりして眺め、顔を引き攣らせたままエリッサは「野菜中心の食生活にしてほしいな」と言った。まあ、これは貰い物だからいいけど日常的にこんなもん食べてたらさすがに腹の肉が大変なことになるだろ。
「でも野菜ばっかりってのは悲しいなあ。肉好きだし、チーズはもっと好きだし」
「肉だのチーズだのそういうケーキだの、ごてごてしたもの食べてると濃くなって飲み込むのがつらいんだよ」
「何のこと?」
 急な話の転換についていけず首を傾げると、彼女は意味ありげな表情で俺の下の方の真ん中を指差した。なんというか、その、その辺りを。
「……えっ」
 つまり、飲み込むっていうのは、要するに……。
「なっ、な、何言ってんだいきなり!」
「野菜を中心に食べてくれればまろやかで飲みやすくなるし」
「っていうか飲まなくていいから!」
 そもそも飲ませようと思って飲ませてるわけじゃないし、ただそれをされると我慢できなくなるだけで、できるなら俺は飲ませたくはないんだけど、だからやめてほしいけどやめてほしくはないし、あーもう混乱してきた。顔が熱い。胸焼けしそうだ。
 ケーキどころじゃなくなって、汗ばむ額を腕で拭う。ニヤッと笑った彼女の顔が近づいてきて、唇を舐められる。触れ合ったまま「甘い」と囁く。これはもしかしなくても誘われてるのか?
 食欲を満たしてすぐベッドに直行、なんて自堕落なとは思いつつ、チョコレートには興奮作用があると聞くから仕方ないとかいって自分に言い聞かせる。エリッサはなんだか嬉しそうな顔して俺に押し倒されていた。
 女ってのは皆こんなにいい匂いがするものなんだろうか。こうやって顔を埋めると、髪が、肌が、甘く香る。色香とはよく言ったもんだ。文句を言いつつエリッサの方こそ甘い匂いに満ちている。俺やっぱり、かなりの甘党みたいだ。



 59 / 104 

back | menu | top