nurse a baby



 家に帰ったらエリッサが赤ん坊を抱いていた。
「び、ビックリした。産んだのかと思った」
「産むか!」
 電光石火で怒られた。そうだよな。今朝まで妊娠してなかったのに今いきなり産まないよな。で、誰だそれ。彼女はぎこちない動きで両腕を突き出して赤ん坊を俺に押しつけてくる。わけも分からないまま受け取ってしまったがこいつは一体どこのどちらさまなんだ?
「はっ、まさかお前、誘拐……」
「するか!」
 疾風怒濤に怒られた。そうだよな。いくら子供が欲しいからって拐ってきたりはしないよな。本当はそのためにアンティヴァに来たのかと一瞬ビビったぜ。
「小母さんが出かけるんでちょっと預かってって、置いていったんだ」
 そう言いつつエリッサは赤ん坊を抱く俺から逃げるように距離をとる。もう少し育った子供なら扱い方も分かるが、こんな柔らかくて小さいのはふとした拍子に怪我でもさせそうでおっかない。できればエリッサの腕に戻したい。たぶん彼女の方でもそれを恐れて遠ざかってるんだろう。
「あのさ、代わっ」
「もう無理! 怖い!」
「せめて最後まで言わせろよ」
「私はあなたが帰ってくるまで頑張ったんだからもういい、責任は果たした。身動きとれなくて腕も足も痺れてるし……」
 ああ、なんでドアの前に突っ立ってたのかと思ったらおばさんに赤ん坊を渡された体勢のまま硬直してたのか。……俺でもさすがにそこまではビビらないけど。
 とにかくベッドの縁に座って膝の上に赤ん坊を乗せてやる。安定してホッとしたのか、指をくわえたままうとうとし始めた。俺の隣に来ておそるおそる覗き込んだエリッサの顔が綻ぶ。子供好きなんだよなぁ、こいつ。でも触るのは苦手みたいだ。
「甥っ子がいたんだろ? 俺より慣れてるんじゃないのか?」
「オーレンを抱っこしたことは、ほとんどなかった。自分の粗忽ぶりはよく分かってる。繊細なものの扱いは苦手なんだよ」
 切なそうな目には後悔の色が浮かんでいた。もっと抱っこしたかっただろうことは明らかだ。そう、それに俺だって、エリッサが子供を抱いてる姿をもっと見たい。座ってれば楽だし、もっかい抱いてみたらと彼女の手を取ってみる。すごい勢いで拒絶された。
「もういいってば。心臓に悪い。せっかく寝てるし起こすのは忍びないしもう触りたくないし」
「おいおい、そんな及び腰じゃ俺の子供を産む時どうするよ」
「…………あなたが産んだらいいんじゃないか?」
「お前は何を言ってるんだ」
 それは無理だろ。そりゃ世話は喜んでするけど、産むのは無理だろ。なんだか真剣に「そうだ、その手があったな」とかぶつくさ呟いてるエリッサを見てると不安になってくる。無理なはずだよな? 男は子供を産まない。それが世界の常識だ。創造主の定めしルールだ。でも我がフェレルデンの救世主様は常識を覆す奇跡をいくつも起こしてきた。もしかしたらということも……あってたまるか!
 いや本当、俺は産まないぞ。いくらエリッサとの間に子供が欲しいと言ったって、それは彼女の仕事であって、俺は無理。俺は産まない。「ウォーデンは子供ができにくいっていうけど普通にできないなら普通じゃないやり方を試せばいいんじゃないか」とか言ってる奥さんにはその辺りをちゃんと分かっておいてほしい。



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