wake up



 目が覚めて隣を見るとまだエリッサがすやすや眠っている。太陽はもう空高くに昇りきって、窓からは夏の日差しが強烈に降り注ぐ。完全に寝坊だ。でも誰にも咎められることはない。義務も使命もない安穏とした生活を噛み締めながら起き上がってカーテンを引くと、熟睡中の彼女に寄り添ってまた寝転がる。
 仕事なんか何もしなくても狩りと菜園の収穫で最低限生きていけるし、ちょっと近所の手伝いをすれば小遣いがもらえるし、好きな時間に起きて好きな時間に寝ても差し支えなく、一切の責任を負わず気儘に暮らしている。なんだか子供に戻ったような気分だ。というか、子供の頃だってこんなに気楽じゃなかった。誰の顔色も窺わず身も心もリラックスしている。まるでハイエヴァーにいる時みたいに。
 始めは、大人の男としては自堕落とさえ言えるこの生活を、あまり長く続けてたらフェレルデンに帰っても元に戻れなくなるんじゃないかと心配だった。だがエリッサは俺がちゃんとけじめをつけられると信じたからこそ無責任が許される生活を与えてくれたんだろう、と思うと堕落なんてしていられない。
 俺が考えるべきは長い休暇を精一杯楽しんで、その後きっちり気を引き締めなおすことだ。それこそ休息の時間をくれた彼女に報いるということだろうから。
 起きる気配もないエリッサの寝顔をぼんやり眺める。ほっぺたを軽くつついてみると上機嫌に口元がゆるんだ。今日は悪夢じゃないみたいだな。
 この状況を作るのにどれくらい苦労させたのかは分からないが、今の生活は彼女自身にも安らぎを与えてるように思う。戦ってる姿も演説ぶってる姿も俺をからかってる姿さえ愛しい妻が、何にも心悩ませずに眠る姿が一番、俺に幸せをもたらした。
 本当はもっとハイエヴァーに帰れたらいいんだろうが、俺の名代で国中を駆けずり回って権威をばら蒔いてる彼女には一人の人間に戻れる時間がほとんどなかった。何年か先、俺が一人前になってまるで偉大なる王みたいな顔して国を動かせるようになったら、今度は俺が彼女に休息を与えてやれるだろうか。
 彼女に惚れる前は永遠なんて全然興味なかったけど、気づけば今この時がずっと続けばいいと願うようになっていた。
 結局、権力ってのはそのためのものだ。愛するものがあり、それを守るために物事を動かす力。策略だとか政治だとか人を支配するなんて言葉をいつも気にしていたが、この暮らしを守るために働くのだと思えば窮屈な義務感なんて消え去ってしまう。
 玉座を捨ててグレイ・ウォーデンとして生き、放浪の旅に戻っていたら今エリッサは俺の隣にいなかっただろう。きっと家族を持つこともなかった。見知らぬ誰かのために命を磨り減らして戦い、誰にも知られないまま死んでいく、それでも運命が自分の手中にあれば俺は幸せを感じたと思うけど、何からも目を背けずにただひたすら幸せでいられるこの瞬間に代えられるとは思えない。
 国王であれグレイ・ウォーデンであれ、そのどちらでもなくたって、肩書きは俺が俺だという事実を変えたりしないんだ。自分自身でいられる日々は、まだ始まったばかりだ。



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