outside work
この近くの森で巨大なクマが暴れまわっているらしい。死人こそ出てないものの町まで降りてくることもあって騒ぎになっているようだ。
「というわけでしばらく出かける」
弓矢と剣を背負ってエリッサは晴々と笑った。なにその出兵する朝の青年みたいな顔。
「ちょっと待って」
「退治できたら肉と毛皮はもらっていいんだって!」
もらわなくていいよ。というか、もらってもいいけど彼女の場合まるごとクマ一匹背負って帰宅したうえにここで捌き始めそうで怖い。大体なんでそんな目をキラキラさせてるんだよ。行くなって言えなくなっちゃうだろうが。くそっ。
「……ああもう、分かった。じゃあ今日中に仕留めてこい」
「えぇ? それはちょっと厳しいな。巣穴を探すところから始めなくちゃいけないし、クマだけで済む問題かどうかもまだ分からないし、」
この辺りでダークスポーンの気配は感じ取れないからブライトの余波ってことはないと思うが、だとしたら凶暴化の原因が何か見当がつかない。もし万が一にも地表付近にダークスポーンの繁殖地でもできて穢れをばらまいてるとしたら大変だ。
「俺は今夜どうしても熊肉が食べたい。だから今日中に仕留めてこい。でも深追いはするな」
べつに少しも食べたくはないんだが、好きにさせくとエリッサは森に入って何日も過ごし、凶暴化したクマを狩り尽くしてその原因を調査して根源を断つまで帰ってこないだろうから。そんなことのために貴重な時間を奪われて堪るか。
「これがブライトの後遺症なら後で俺も一緒に行く。一人でやるなんて無謀は控えろよ。で、単にクマの気が立ってるだけなら今日一日で決着がつくだろう。お前ならできるよな?」
「……わ、分かったよ。がんばる。それと、無理はしないようにする」
「よろしい」
目一杯に力を籠めて念を押したらエリッサは渋々頷いた。俺は知ってるんだ。本当はせっかくの機会に身ひとつで森に入って獣を狩り木の実をかじって過ごしたいんだろう、この野性貴族め。それは全然構わないけど、「一緒に来てほしい」って俺を誘うことを覚えない限り勝手には行かせないからな。
怒り狂ったクマ程度では肩慣らしにもならないだろうが、それでも久しぶりの戦いに胸をときめかせ、エリッサは意気揚々と出かけて行った。夕暮れ前には巨体を背負って帰ることだろう。
それにしても熊肉ってどう料理すればいいんだ? 旅してる間もクマは食べなかったからなぁ。近所のおばさんたちに聞いたら教えてくれるだろうか。……うん? エリッサが狩りに行って俺は家で菜園の世話しながら待つ……ってこれ完全に立場が逆だろ。デネリムでさえ恐妻家だとからかわれるのにアンティヴァのおばさま方の集中砲火を喰らうのはさすがに遠慮したいな。彼女が出かけたのは黙っておこう。
ご近所に行けないとなると途端に暇だ。薄々感じてたことではあるが、エリッサが外へ働きにいくので俺は完全に奥方の仕事をしている。ご近所付き合いをなくしたら一人でどうやって時間を過ごせばいいのかも分からない。
「……昼までに帰ってこいって言えばよかったなぁ」
町の方まで行ってガキどもと遊んでやるか。でなければ、料理修行に打ち込むのもいいかもしれない。デネリムに帰ったらできないことはたくさんある。その筆頭が、“エリッサの飯を作る”ということだ。シチューは飽きたと言ってたし、アンティヴァ流の複雑怪奇意味不明なややこしい味の料理を研究してみるとするか。