She’s a knockout



 社交的で人見知りしない彼女は気まぐれに町へと遊びに行っては商店の客寄せやら荷運びやら護衛やら果てはライバルの排除なんてことまでやって毎日結構な枚数のコインを持ち帰ってくる。要領がよくて物怖じしない、どこでも金を稼げる素晴らしい人材だと思う。
 公爵閣下の御息女サマが荒くれ揃いのウォーデンでやっていけるのか、なんて心配してた頃の自分を鼻で笑ってやりたいくらいだった。
 それにしても彼女の周りはいつでもやたらと華やかだ。俺が時々見かける彼女の“友達”は……嫌味なほど、男も女も美しい。みすぼらしかったり醜かったりするやつは一度も見かけない。
「お前って本当に美形が好きだよなぁ」
 類が友を呼ぶように彼女の周りには同じくらいの容姿レベルを持つ男女が集まってくる。そうでない者に対して態度が悪いわけでは決してないが、完璧な輪の中に押し入っていけるほど図太い神経してない俺としては微妙な気持ちになってしまう。
 エリッサは眉をひそめてちょっとばかり不満な顔をした。
「だって外見は重要だ。初めて出会う人間を判断するには表情や仕草から人格を読み取るしかない」
 そりゃまあそうだ。不細工でも善良なら素晴らしいが、善良でしかも美形な方がずっといいからな。そう言うと身も蓋もないけど。
「あなたは自分が不細工だとでも思ってるのか?」
「いや、俺はハンサムだと思うよ。お前が言うくらいだからな」
 彼女は無意味な世辞を吐かない。俺をおだてたって得るものがないし。その審美眼は冷酷なまでに的を射ているから、同性に対して卑屈になりがちな俺の自己評価よりも信用している。
 ただちょっと落ち込むだけだ。俺が人並み以下ではないとしても、優美に着飾った彼らの中に入るには素朴すぎるように思う。気品と華やかさに欠けている。一流の調教師が手入れした美しい馬の中に風呂に入りたての犬が混じってるようなもんだ。俺が頑張って身綺麗にしてもあいつらには追いつけない。そもそも種族が違うように。
「お前みたいに綺麗なやつは見たことないよ。嫉妬なんてしないが、ああいうやつらは……お前の隣にいるのが似合うな、と素直に思う。思えてしまうのが嫌だ」
「私を過大評価しすぎなんじゃないの? もっと綺麗な人はいくらでもいるよ」
「そういう問題じゃないんだよなぁ」
 確かに顔の造詣だけで言えば大豪邸の奥深くで花のように大切に育てられた令嬢たちみたいに、あるいは他人を惑わせる所作を知り尽くした商売女みたいに、彼女より整った容姿の女はたくさんいるのだろうが。
「本当に美しくなりたければ剣なんて握るべきじゃない。美貌だけで人の世を渡っていけるほどの者が世界には山ほどいる。私では比べ物にならない。私は絶世の美女だと称されるよりも総合的に評価されたかったから、外見にも拘っていたけど、武芸を磨くために外見を犠牲にすることもあった」
 マメだらけの指とか切り傷まみれの両腕だとか、彼女の外見には美しさから程遠い痕跡が多々残されている。あのブライトの真っ最中だって魔道士が旅に同行していなければ彼女の体はもっと傷だらけになっていたはずだ。野蛮と言われるほどの勇猛さはきっとエリッサの美的価値を下げている。でも、俺はたぶん……。
「だけど俺には、その“完璧な美”を損なう欠点こそお前を美しいと感じる理由なんだ。お前の意志が作り上げてきた、今のお前そのものが、俺には世界で一番美しく見える」
 黄金の台座に誂えられた宝石ではなくて、鋭く研がれた刃の、その意志の美しさ。きっと誰がなんて言っても関係ない、俺にとってはこいつの存在が放つ輝きこそ、この世の何よりも綺麗に見える。
「アリスター……そんなに褒めてどうしたいんだ。買ってほしいものでもあるの?」
「いいや? 俺はもう素晴らしく価値あるものを持ってるからね」
「熱でもあるんじゃないのか」
 俺を悩ませるのは宝物を手に入れた者に特有の不安だった。この幸運をいつか誰かに盗まれやしないかと心配になる。
 その黒髪、その緑眼、闇に映える白い肌、玲瓏たる声音、拗ねて尖らせる唇、自信に満ちた微笑み、アマランシンの海より深い家族への愛、フロストバックの山より高い気位、凍りつくような憎しみ、燃え盛る怒り、決して折れない信念、愚か者を見捨てられない弱さ、世界を背負い立てる強さ、そして限りない優しさ、子供っぽさも老獪さも、彼女を構成するすべて。
 俺が一番、彼女の美しさを理解してる。俺ほど彼女を必要としているやつはいない。俺ほど彼女の魅力に取り憑かれてるやつは他にいない。だからどうか運命よ。例え俺たちが不釣り合いで不格好に見えたとしても、いつかもっと相応しいものが現れたとしても、俺から彼女を奪わないでほしい。
 胡散臭そうに俺を見つめていたエリッサは、やがて付き合いきれないとばかりに顔を背けた。眉間にシワを寄せたそんな表情でさえ惚れ惚れするほど美しく思えてしまうんだからどうしようもない。



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