You have a good figure



 もう暑くて、朝起きた瞬間から暑くて、というか暑さで目が覚めちゃうくらいにもう、暑い。滴を受け止めて潤いの喜びに葉を震わせる野菜たちに軽い嫉妬を覚えながら畑に水を撒いていた。始めのうちは浮かれまくって夏のアンティヴァもそれはそれでいいなんて思ってたがやっぱり嫌だ。暑い。
 耐え難くなってシャツを脱ぎ捨てると心地好い風が素肌を撫でた。この辺りは滅多に雨が降らなくて日射しが強くて、ブドウにはいいと聞いたが俺にはさっぱりよろしくない気候だ。
 上半身裸に麻のズボンとクロッグだけ。ちょっとどころじゃなく見苦しいこんな格好はデネリムに帰ったら絶対できない。でも今ならエリッサしか見るやつもいないから平気だった。
 そのエリッサはといえば木の幹にもたれかかってずっと日陰でぐったりしていたんだが、気のせいでなければ俺が脱いでから少しだけ元気になったみたいだ。しかし俺以上に暑さに弱い彼女は真夏の昼間の快晴に野外活動を行うと黒髪が熱を吸ってすぐへばってしまう。わりと本当に危ないし、俺としては家の中でゆっくりしててほしいんだが。
「何やってんだ?」
「目の保養」
 真顔で即答されて言葉に詰まる。脳が意味を理解した瞬間カァッと頬に熱がのぼった。暑いからな。うん。それだけだ。
「俺なんか見ても楽しくないだろ」
「いい体してるなぁと思って」
 何をおっさんみたいなこと言ってるんだよ。言われた俺の方も嬉しいような恥ずかしさが勝るような微妙な気持ちになる。
 狭い畑の水撒きはすぐに終わって、エリッサの横に腰かけた。彼女はなんだか嬉しそうな顔で俺を、むしろ俺の体を眺めている。やっぱりちょっと恥ずかしい。
「お前って筋肉好きだよな」
「まあね。男の方が鍛えるほど美しくなるし」
 確かに女の体はかなり鍛えててもどっかしら柔らかい印象が残る。特に、その……谷間のところなんか柔らかくて蒸れて暑そうだから、もっと襟を開けて風を送り込んだりすればいいと思うぞ。……いやいや何を考えてるんだ俺は。かなり暑さにやられてるようだ。
「じゃあさ、もし俺が不摂生をしてだらしない体型になったら嫌いになる?」
「殺す」
「えっ」
「殺す」
「に、二回も言わなくていい!」
 何を当たり前のことを聞くのかというような顔が恐ろしい。均整のとれた体に熱視線を向けられるのは嬉しいけど俺は他の部分に価値がないのかと思うと悲しくなった。ともあれ、どんなに暇でも忙しくても鍛練だけは欠かさずにいよう。
 溜め息を吐いた俺を不思議そうに見つめるとエリッサはそっと肩に寄りかかってきた。長くなった髪がくすぐったい。
「他人のことだったら拘ったりしない。あなたに相応しくない見苦しい体になるのは嫌だというだけだよ」
「まあ、見苦しい体も似合うと思うけどね。俺は意志が弱いし」
「そんなことはない。それに好きな男にはいつも理想的であってほしいものでしょ」
 ……あれ? なんかこの辺りの気温が一気に上がったような気がするんだけど。変な汗が出てくる。顔が熱くて目も合わせられない俺を見上げて彼女が小さく笑った。からかわれてるのか本気なのか、よく分からないな……。



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