Tolerant of dependence



 エリッサはよくベッドで本を読む。寛ぎすぎると内容が頭に入ってこないし、椅子に座って読んだ方がいいんじゃないかと俺なんかは思うんだが、いつでも眠れる体勢で読む方が効率的だとか言っていた。読み終わった時に本を置いて椅子から立ち上がりベッドに移動する手間がもったいないんだそうだ。はなからベッドで読んでれば本を置くだけで済む。
 趣味の時間までそんなに慌ただしくしなくてもいいだろうに、仕事に追われる王宮での生活が染み着いて予定を切り詰めるのが癖になってるみたいだ。
 べつに邪魔するつもりはないんだがちょっと構ってほしくて彼女の膝に頭を乗せてみる。邪魔くさそうに本を持つ手をずらしたが読むのをやめはしない。もうちょっと体重をかけて寄りかかると、座っていられなくなったエリッサは俺をお腹に乗せたまま仰向けに倒れた。
「何?」
「んー、なんでもない」
「今これ読んでるんだけど」
 すごく邪魔なんだけど、と言外に含ませつつ退けとも言わずしばらく非難がましい視線を向けていた彼女は、俺が無視を決め込んだら諦めてまた本に意識を戻した。
 真正面から抱き締めた時エリッサはその感触を「しっくりくる」と言う。それは俺にとっても同じだった。凹凸までぴったり嵌まるように彼女を抱くのは違和感がない。ふかふかのベッドよりもエリッサの上に寝そべる方が気持ちよく眠れると思う。たぶん、向こうはかなり重くて苦しいだろうけど。
 腹這いになったまま彼女の体をよじ登り、柔らかな胸を枕にすると頬に当たる感触の良さに思わずしまりのない笑みを浮かべてしまう。下敷きにされたエリッサからは「本が読めない」と苦情が殺到していたが、生憎と今は謁見の時間じゃないんだ。陳情はまたの機会にしてくれ。
 本当に邪魔するつもりはないんだ。俺より本を構いたいならそうすればいいし、べつにこっち見て相手してくれなんて一言も言ってない。俺は俺で勝手にじゃれついとくからお前はお前で好きにしていいよ。なんて心の広い俺。とかいうようなことをどうやら声に出して言ってたようで、エリッサは苦笑しながら読みさしの本を閉じてベッドサイドのテーブルに置いた。
「まったく、甘え方が犬と同じだな」
「それは誉め言葉だろ?」
 さっきまで熱心にページをめくっていた指が子供をあやすように俺の髪を撫でている。嬉しさのあまり覆い被さるように抱きついた。尻尾があったら盛大に振りまくっていただろう。
「重い。じゃがいも袋にのしかかられてる気分だ」
「もっとマシな言い方はないのかよ」
「うーん、じゃあ油樽の下敷きになった気分」
「それマシになってんのか?」
 彼女の手がそれこそマバリにそうするのと同じ強さで俺の頭や背中をわしゃわしゃと撫で、ふっと笑う吐息が髪にかかった。心地好いくすぐったさに浸る。見栄を取っ払って誰かに甘えるのはなんて気持ちがいいんだろう。失望されるのを怖がって、ただ遠くから憧れているだけの時には絶対にできなかった。幼い時には決してできなかった。彼女がそれを許してくれること自体が嬉しくてたまらない。



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