運命との出逢い


 確かに私は、天命を終えたのだ。それなのに、どうして今、ここにいるんだろう。
 ジェシカは途方に暮れてしまった。最期に見た景色と、この場所はあまりにもかけ離れていた。緑豊かな植物、遠くから聞こえる賑やかな繁華街の音、遠くを見据えると、青く美しい大きな海が広がっている。カモメの鳴き声が響き渡り、海岸には多くの船が停泊していた。
――もどって、きた?
 ここは、海賊たちが生きる世界。大切な彼らがいる場所だ。
 ジェシカが最後に見た景色は、シャボンディ諸島で仲間が海軍に追われている姿だ。痛みを感じないこの身体を有効活用するのは今しかないと、麦わらの一味が知ったらこっぴどく怒る闘い方を、ジェシカは率先して実行した。
 その結果が、一番先に潰されるという末路、腹も足も、腕すら出血してしまい、ふらふらとする視界の中。脳から発する命令通りに動かない身体が腹立たしかった。仲間の叫び声が響く中、ジェシカは一大決心をする。自分自身に、『人体錬成』を施す。それは、自分を分解して再構築することにより、動ける身体にするのだ。
 ジェシカは仲間や海軍たちの視線を一身に浴びながら、脳内で構築式を描く、立ち上がれなくなった身体に鞭を打ち、腕を天に向かって伸ばし、手のひらを重ね合わせた。仲間が必死に名前を呼ぶ声に笑みがこぼれた。
『――動けよおれの身体ッ! 待て、やめろ! ジェシカちゃんッ!!』
 サンジの声だけ、なぜか今でも鮮明に思い出せる。ジェシカがそれを最後に『人体錬成』を行うと、次に見た景色は、錬金術の世界だった。
 元いた世界にてグレイシアやエドワードたちと再会を果たし、『約束の日』の闘いを終わらせた。そして、人生すらも終えた。
 そうしたら、今度は戻ってきてしまった。
「おかしい……やっぱり原則と法則を無視してる……」
 科学者なりに原理を考えてみようにも、脳はパンク寸前である。
「まあ……来ちゃったからには仕方がない、か……」
 この世界において、思考放棄がだいぶ板に付いてきた。起きてしまったことだ。現象が成された後では、もうどうしようも無い。
 あれから、どれくらいの時間が経過したのだろう。仲間はどうなったのだろう。今もどこかで生きているのか、それとも――。
 そこまで考えて、ジェシカの身体はぶるりと大きく震える。せっかく戻ってこれたのだ。前向きに考えないといけない。
「……とにかく、情報を集めないと」
 ジェシカは座り込んでいた大きな石から立ち上がる。まずは街におりて、情報を集める。そして金と船の調達を目指す。
 ジェシカは街に降りて行く。足取りは軽くはない。しかし、一歩一歩地面を踏み締めて歩いた。
 そうしてジェシカは、近い未来、ルフィの義兄である、ポートガス・D・エースが処刑されることを知るのだった。

22,05.28



All of Me
望楼