マルコは白髭海賊団にて船医も担っている。手当は主にナースが行うが、まずは船医のマルコが状態を把握し、マルコが施術を施すか、ナースが手当をするか決めている。そのため、マルコは数多いる海賊団の人間すべての健康状態を把握していた。特に隊長クラスの人間の身体のことは、自分の事のように熟知している。有事の際
「なんだこりゃあ……」
マルコが“検死”したエースの『焼死体』。丸焦げになっており、調べることさえ困難なそれを終えて、マルコは愕然とした。
「歯の治療痕が……違う」
『焼死体』は、完璧なくらい“エースだった”。身長も、手足の長ささえもエースだった。しかし、『焼死体』の口を開けて中を見た途端、それは“エースではなくなった”。
「おい、どういうことだマルコ!」
「違うって……じゃあそりゃあ……!?」
「……ああ、やはり、俺の見立て通りだよい」
見立て通り。憶測だったそれが輪郭をはっきりと帯びて真実を主張する。『焼死体』は、エースではない。
エースの歯の治療痕を、マルコはしっかりと熟知している。エースは上の歯の親不知が一本欠けている。残しておく必要はないから抜けばいいと助言したのに、生活に支障はないからと残しておいた挙句、いつだったか、戦闘で思い切り相手に殴られた時に、欠けてしまったのだ。
「こりゃあ……エースじゃない」
「エースじゃねぇって! じゃあ、それは誰なんだよ!?」
「エースは生きてるってことか!?」
両脇から腐敗臭にも気にせず大声で仲間が詰め寄ってくる。マルコはマスクを外して、『焼死体』をまじまじと見つめた。
「ああ……エースは生きてる……かもしれない」
「おい!? 本当か!?」
「でも、かもしれないってどういうことだよ!?」
「思い出してみろよい……あの時のこと」
エースは『焼死体』になる前、ヒューズ・ジェシカの攻撃を受けている。背中に大きな斬り傷だ。あれは致命傷になる。マルコは遠くからその様子を見ていたが、とてもじゃないが出血多量で死に至る可能性が高かった。その後に起きた大きな火柱に、エースは包まれて爆炎を受けた。
「いや、待てよい……」
なにか見落としている。火柱と爆炎の間に、なにかが走り寄っていったはずだ。
「……ウロボロスの、刺青集団」
そうだ。ウロボロスの刺青集団。あの黒くて大きな化け物。海軍を端から次々と“喰っていた”やつだ。あいつが火柱に向けて駆け寄っていっていた。
「いや、でも、まさかな……」
エースを“喰った”か? いいや、そんなことしてなんの意味がある。エースの処刑はヒューズ・ジェシカが背中に傷を負わせたことで、終了したはずだ。
――いいや、ちょっと待て。
それなら、どうして爆炎なんて起こして、エースを“焼いた”? 焼死体にする必要はあったか? むしろ、背中に傷を負わせて事切れるのを待つべきではなかったのか?
「何かがおかしい」
そう、辻褄が合わない。上手く真実が組み合わさっていかない。ジェシカの行動には疑問が残りすぎている。焼死体にする意味は。背中を斬りつけた理由は。そして、ウロボロスの刺青集団が駆けていったのは……。
「っ、まさか……!」
『焼死体』は、エースではなかった。ということは、エースと引替えに、ジェシカは『焼死体』を置いていった。爆炎が消えた時に現れたのは『焼死体』だ。それ以前にその場にいたのは、エース、ジェシカ、ウロボロスの刺青を持つ者の“三人”だ。爆炎が消え去ってその場にいたのは“二人”と焼死体が一体。
――ウロボロスのヤツが、エースを“喰った”のか……?
だとしたら、『焼死体』も爆炎も頷ける。エースを喰い、代わりに『焼死体』をジェシカは置いていった……。
「生きて……いるのか……?」
あの化け物に喰われて生きている保証なんてない。しかし、もし生きているのだとしたら。
――エースを逃がすために、喰われた?
ヒューズ・ジェシカが単にエースの死刑を執行するためだけに『名誉大罪人』になった理由もない。それどころか、エースはモンキー・D・ルフィの義兄である。そしてヒューズ・ジェシカは……。
「アイツの船員だ……!」
ルフィの船員、麦わらの一味だ。それならば、話は繋がってくる。船長の義兄を助けるために、ジェシカが行動に移したのならば。
「おいおい、こりゃまずいぞ……」
全世界を騙し裏切り、ヒューズ・ジェシカはエースを救ったことになる。
「ははっ……よくもまあ、やってくれるよい」
世界を欺き“エースを奪った”ヒューズ・ジェシカは、『名誉大罪人』なんてどころじゃない、立派な海賊だ。
マルコはその後、『焼死体』がエースではないこと、そして一縷の望みを込めて、エースが生きているかもしれないことを、仲間へと内密に打ち明けたのだ。
22,06.22