ジェシカは島の繁華街に降りていた。店先を練り歩きつつ、合法的に海軍の船に忍び込み、マリンフォードに向かう方法を探している。海軍に捕まれば自分もお尋ね者だ。インペルダウンに投獄されてしまう可能性だってある。あくまで、合法的にかつ安全性の高いやり方で、マリンフォードに向かうには、他に手があるはずだ。
――いっそのこと、海軍の端くれに成りすます?
だめだな、女の海軍など珍しいだろう。これはバレてしまう。男に成り済ます身長も体付きも自分にはない。ならば、海軍関係者、看護や清掃人に扮するか……? いいや、感覚がない自分はヘマをやらかしてきっとすぐにバレてしまう。
ジェシカは手のひらを広げる。肌も、髪の毛も、すべて白。これでは潜入など向いていない。髪を染めてどこまでバレずに潜入できるか。しかし、そもそも潜入という手があっているのだろうか。もっと別の方法があるのではないか。
エース救出に関するジェシカは諦めが悪かった。
――こうなったら、海軍一匹捕まえて洗いざらい吐かせる?
海軍の規則や制度、構成人数や処刑当日の警備の詳細まで、すべて吐かせればいいのではないか。
「……これだ。吐かせよう」
四の五の言っている暇はない。決まればそう、海軍を見つけなければ。
「どこに行けば会えるかな」
海軍と言えば海。海岸。海軍の船。島での海賊討伐や捜索。歓楽街での羽根伸ばし……。
――とりあえず、歓楽街を目指すか。
あまり好きなところではないが、目的のためなら仕方が無い。ジェシカが踵を返そうとすると、裏路地からにゅっと腕が生えて捕まえられた。
「は……!?」
考え耽っていて、周囲の警戒を怠った。ジェシカは腕を掴まれて路地裏に引き込まれる。太陽が登っていても、裏路地は薄暗かった。サングラス越しに相手を見る。ジェシカは、空いた口が塞がらなかった。
「なっ……えっ?」
「うわー! やっぱりー! ジェシカだー!」
「久しぶりね、ジェシカ」
「は……?」
「まさか本当に会えるだなんて」
「すごーい! ジェシカ、その腕食べてもいいー?」
「ダメよ、言ったでしょう。ジェシカとは『引かれ合う者』同士なんだから」
「そっかー……残念」
「安心しなさい。夜になったら沢山食べたらいいわ」
「ほんとー? やったー!」
ジェシカは目の前で繰り広げられている会話についていけなかった。
――なんで、いるの?
ジェシカの前に現れたのは、黒い服を着た二人組の男女である。男は身長が低く小太りで、食いしん坊なのか甘えん坊なのか、指をしゃぶる癖があった。もう一方、女の方は容姿端麗で美しい髪をなびかせ、身体のラインがハッキリとわかる黒いドレスを身にまとっている。二人とも、体の一部分に、ウロボロスの刺青が刻まれている。
「グラトニー……ラスト……?」
「はーい!」
「賢者の石は『引かれ合う』のよ、ジェシカ」
ぽかんとしたジェシカから呼ばれ、グラトニーとラストは悪戯が成功したような笑みを浮かべていた。
22,05.30