切なる願いを


「ガープさん、私を『名誉大罪人』にしてくれませんか?」
「なっ……なんじゃと!?」
 ガープは驚愕した。どこでその制度を知ったのか。そして、今の自分の立場で、それをやるというのか。
「お主、何を言ってるのかわかっているのか」
「わかっています。私には、達成すべきことがある。だから、あなたから軍に申請してくれませんか?」
 ジェシカのいう『名誉大罪人』とは、王下七武海制度が発足する以前の、古い制度のことである。海軍の、主に海賊討伐に協力する一方で、その者の罪を軽くする制度のことだった。罪は軽くなるものの、『名誉大罪人』となれば、自分が籍を置く海賊団ですら討伐対象になる。海軍の命令に絶対に従わなければならなくなり、それは『名誉大罪人』となってから一生続くものだった。
――未だかつて数件しか使われていないそれを、なぜこの少女が知っている?
「ふふっ、ガープさん、なんで知ってるんだって顔してる」
「なっ……」
「海軍にね、忍び込んだんです。そこで古い記録から海軍兵の構成員数、組織形態をすべて漁りました」
「なっ、なんじゃと!?」
「ほら、私、海賊とかウロボロスとかのほかにも罪を犯しているでしょう? だから、『名誉大罪人』になりたいんです」
――こやつ、本当にそれが目的か? 
 うっすらと、いや濃厚なきな臭さがある。なにか隠していることは確かだった。何を隠している。本当の目的はなんだ。「達成すべきことがある」と先ほど話していた。それは海軍と、『名誉大罪人』になることと、何の関係があるというんだ。
「本当の目的はなんじゃ。それすら言わぬくせして、ワシに申請してほしいなどと――」
「言うんじゃないって? 確かにそうですね。……あなたなら、言ってもいいかもしれない」
 ボソリと聞こえた最後の言葉に、ガープは目を細める。
――ワシだから、言ってもいいだと? 
 どういうことだ。舐められているのか。それとも立場的に、中将では敵いもしないことだとでも言うのだろうか。
 ジェシカは静かに笑った。その姿が亡きルージュそっくりで、ガープは言葉を失う。彼女は美しく強い女性だった。ルージュの姿が、まるでジェシカに乗り移ったように見える。
 ガープは強く瞬きをした。目の前にいるのは、ヒューズ・ジェシカだ。まるで幻のような体験に、ガープは胸を高鳴らせた。
「内緒にしてくださいね? 実は私――」
 ジェシカが顔を近づけてくる。ガープは目を見開いた。身体が動かないのだ。何もされてはいない。けれど、その圧倒的な白さが視界を埋めていくたびに、美しいと感じてしまった。
 ジェシカの頬が、ガープの頬とくっつきそうになる。耳元でジェシカが秘密を口にした。
「――エースの処刑を、代わりに行いたいんです。彼を助けるために」
 桜の花弁が舞う中で、彼女は残酷なことを言い放つ。

22,05.31



All of Me
望楼