「ポートガス・D・エースの処刑を執り行う! 死刑執行人は、『名誉大罪人』のヒューズ・ジェシカ!」
センゴクの宣言から計画は開始された。ウロボロスの刺青マークを背中に表したコートをはためかせ、ジェシカは現れる。
同時にグラトニー、ラスト、スロウスが場外から突然攻撃を始め、海軍や白ひげ海賊団、相手関係なく蹴散らしていく。ジェシカはそれを壇上から静かに見下ろしていた。センゴクや海軍兵の困惑する声を聴きながら、ただじっとエースの背中を見つめていた。
「どういうことだヒューズ! なぜウロボロスの刺青集団がここにいる!?」
センゴクは焦りで、この場がどのような場所かを忘れ去っているようにも見えた。
ここは人の生死が司られる場所。処刑台というのは神聖な場でなければならない。少なくともジェシカはそう考えている。しかしセンゴクからすれば、ホムンクルスが暴れだしたというのは、予定外の裏切りともいえる行為なのだろう。
「さあ?」
ジェシカはシラを切った。そもそも、『名誉大罪人』として海軍に謙ったのは自分だけで、『ウロボロスの刺青集団』なんてものは関係がないのだ。ジェシカが親玉のように立場にいるように見せかけているだけで、ホムンクルスに協調性など求めてはいけない。
「ヒューズッ!」
センゴクの怒りは頂点に達しかけている。しかし、ジェシカはまったく別のことを考えている。
――ヒューズ・ジェシカじゃないっつーの。
この世界では、元いた世界と違い姓と名を逆に名乗るようだった。あくまで自分はジェシカ・ヒューズである。『彼』から『ジェシカ』を、義兄(あに)から『ヒューズ』をもらったのだ。
ジェシカにとって『ジェシカ・ヒューズ』という名前は、命以上に手放してはならない贈り物であり、宝物だった。逆に名乗るなどありえない。『ジェシカ・ヒューズ』で一つの名前なのだ。
――訂正したところで無駄だけど。
何も聞きいれてくれないだろう。頭のおかしい奴とでも思われるかな。最初から諦めているジェシカだったが、それでも『ジェシカ・ヒューズ』だと呼んでくれた仲間がいたことを思い出す。
――ルフィ、みんな……。
仲間にしてもらったのにこの始末だ。どんな結末を迎えるかだなんて分からない。けれど、その結末の前に、エースを救うという重大な仕事がある。
ルフィはこの場に来ている。インペルダウンの囚人を一部脱獄させて、状況一変させている。地上まではまだやって来ていないが、きっと彼は来る。
不安材料といえば、ルフィだけだった。あとの海軍や白ひげ海賊団の目は、完全に奪える自信がある。彼らの行動理念も行動パターンも概ね想像つく。しかし、ルフィだけはどのような行動を取るかが分からない。真っ直ぐすぎて無鉄砲。想いの強さの分だけ彼は強くなる。
ジェシカの計画は、ホムンクルスとの共同戦線が元に成り立っている。彼らが思う存分暴れ回ることが成立条件であり、計画が成功するための鍵だった。
ホムンクルスたちは一思いに暴れ回っており、活き活きとしていた。ラストは容姿で誘惑して隙をつきつつ一気に自慢の爪で、グラトニーは身体を噛みちぎって、スロウスは強靭な腕力で敵を薙ぎ倒していく。
――もっと暴れて、もっと注目を浴びて。
海軍や白ひげ海賊団がどんなに傷つこうと、ジェシカはなにも感じない。エース、そしてここに来るであろうルフィ。ジェシカがこの場で優先されるべきと考える命は、たった二人だけだった。
22,06.12