命運


 ケイミーが攫われたと一報が入り、麦わらの一味は『トビウオライダーズ』の尽力を得て、捜索を開始した。『人間屋』と呼ばれる人身売買所は数多く存在しているが、その中でも『ハウンド・ペッツ』と呼ばれる一番グローブに存在するオークションハウスに、ケイミーがいるとの情報が入る。 
 『HUMAN』と掲げられた建物は、所々苔が生えており、古い歴史があることを象徴している。麦わらの一味は門番に話を通すが、納得のいく回答を得ることが出来なかった。ならば力づくでもケイミーを連れ戻すしかない。ジェシカが物騒な提案を思想になっている時、ナミは踵を返した。
「手が出せないんなら! “ここのルール”でケイミーを取り戻してやるわ!」
 船の宝を軽く見積っても二億分。人魚の相場は高いものの、二億もあればケイミーを連れ帰れる算段だった。二億で足りないのならば、『造って』しまえばいい。ジェシカは仲間に着いていきながら静かに考える。
 この世界で誰かに錬成を見られたことはまだなかった。誰かの目に触れれば、たちまち悪い方向に流れそうだったからだ。しかし、友人の危機となれば、そうも言ってはいられない。ジェシカは周囲にあるものを一つずつ確認しながら、金を錬成できそうなものに目をつけていく。
「ナミちゃん、もしお金が足りなかったら教えて」
「えっ? どうして……あてでもあるの?」
「少なからず、協力はできると思う」
 ジェシカの言葉に、ナミは目を丸くしつつ力強く頷く。
 先に『ハウンド・ペッツ』に到着した面々は、人身売買の場へと扉を開ける。

   *

「魚人島からやってきた! “人魚”のケイミー!!」
 盛大な拍手とともに、麦わらの一味の友人は紹介された。会場の興奮が増していく一方で、ジェシカの心は凍てついていく。
 人が人を買う。相手を同等に見ていない蛮行は、ただひたすらに嫌悪と憎悪を増加させる。人は血筋や肌の色、能力の違いや差に関係なく、尊ばれる存在である。生や死は誰かに支配されることはあってはならないし、選択肢を与えないことは人権の侵害にあたる。
「五億で買うえー! 五億ベリー!!」
 しかし、どこの世界にも差別は存在し、人権が保証されないことはある。
 ケイミーを五億ベリーで買うと宣言したのは、かつて世界政府を設立した者の血族である『天竜人』という存在だった。会場は金額の高さに呆然としてしまう。ナミが悔しそうに唇を噛み締め、他の仲間も苦い顔をしている。
「ナミちゃん、どうする? 私なら力になれる」
 ジェシカはナミに囁いた。かつて錬金術の世界では禁忌とされていた行為だが、世界が違うのだ。この世界では禁忌に値しない。
「ジェシカ、私……」
「ナミちゃんが許可してくれるなら、私はすぐにでも金を用意する」
 衝撃がまだ抜けきれないナミに、ジェシカは強く言いかけた。チョッパーやサンジの視線を受けつつ、ジェシカは脳内で金を錬成する算段をつける。人の目が多い中、可能な限り見られずに錬成を行うにはどうしたらいいのか。ジェシカは必死に思考を巡らせた。
「ぎゃああああ〜!!」
 突如響いた悲鳴に会場内が騒然とする。視線を向けると、そこに居たのはルフィとゾロ、ルフィを運んだ『トビウオライダーズ』だった。
「ケイミー探したぞ! よかったー!」
 ルフィはケイミーに気づいた途端、救出に走り出すも、ハチに止められる。爆薬首輪がケイミーに嵌められていること、『天竜人』が絡んでいることを説明する。しかし、ルフィが返事を返す前に、ハチが魚人族だとバレてしまった。
「ケイミーは売り物じゃねぇぞー!」
「海へ帰れ化け物ー!」
 会場内はパニックに陥った。ルフィの行動を止めようとする、ヒューマンショップの人々。ハチが魚人族だと知り恐れる来場者。騒ぎが大きくなっていく中、それが止まったのは数発の銃声だった。
 天竜人がハチを撃った。ハチは階段に倒れ込み血を流している。天竜人はハチを仕留めたことに、嬉しそうにその場で両手を上げていた。
 ジェシカは言葉を失った。根深いほどの差別と身分の差に、誰も手出しができない。ここまで人の命運を、本人以外に委ねられていいのだろうか。いけないとわかっていても、ジェシカは天竜人の業への恐怖と憤怒から、身体が震えて動けなかった。
 誰も動けない中、真っ先に動き出したのはルフィ。天竜人を殴った音が、会場中に響き渡った。

22,07.14



All of Me
望楼