三日後の再会を約束した矢先、麦わらの一味は、十二番グローブにて、七武海の一人バーソロミュー・くまの攻撃に遭っていた。話によると、以前ブルックを仲間に入れたスリラー・バークという場所で闘ったことがある様子だったが、そのときとは段違いの力量らしい。くまの光線から逃げ惑いつつ、隙を伺いルフィ、ゾロ、サンジの三人が一気に畳み掛けても、致命傷を与えることは難しかった。
ジェシカは仲間から離れた場所で、誰にもみられないよう注意しながら錬成した剣二本を両手に持ち、応戦しようとする。三人の攻撃で建造物にぶつかり背中から倒れたくまに近づき、くまの胸を目掛けて攻撃を加えた。しかしすぐにくまは動き出し、手のひらから光線を出そうとする。ジェシカはすぐさま距離を取り、光線を避けた。
「ジェシカちゃん! 大丈夫か!?」
「大丈夫!」
サンジの言葉に返しながらも、ジェシカの視線はくまを捉えて離さない。くまは生身の人間のように見えて、金属がぶつかり合う音が大きな身体から聞こえてくる。機械鎧なのだろうか。ならば、接合部分を狙うしかない。ジェシカが考えているうちにも、仲間は次々に思い思いの攻撃を仕掛けていく。
ウソップの攻撃がくまの口の中に入った途端、動きが鈍くなった。フランキーが状況を分析して皆に教える。
「おれと同じように身体中を兵器で改造しただけの、元は生身の人間なんだ!」
――そういうことか。
金属音の理由がわかった。ならば、身体の内側から壊してしまえば、勝利は見えてくる。
ロビンとナミの攻撃がくまの体内外を苦しめて、動きが止まる。一歩勝利に近づいたと思った途端、くまは両手を広げて爆発を起こした。
「これは……出し惜しみしている場合じゃないか」
錬金術を戦闘で使うつもりはなかった。科学は人の生活を豊かにするものであって、戦闘の道具ではない。イシュヴァール殲滅戦にて錬金術により一族が蹂躙されていく様子が、ジェシカの脳内にずっとこびりついている。そのため、ジェシカは戦闘時、キング・ブラッドレイによって育てられた剣技でずっと応戦していた。けれど――。
――仲間の命がかかっている場面で、全力を出さないのは後悔する。
もう、誰一人失ってはならない。ジェシカは剣を二本地面に突きつけた。ギィインと刃が揺れる音が響くなか、仲間はまだ闘っている。
サンジとゾロの協力プレイ、そこからのルフィの攻撃が放たれる。
砂埃や煙が視界を覆う中、くまはようやく動きを止めて倒れ込んだ。戦闘やくまについての考察を各々が述べる中、ジェシカはくまに近づいた。
「ジェシカちゃん、怪我ねぇか?」
「大きいものは。サンジくんは大丈夫?」
「ああ。この通り。……それよりも」
くまの近くにはサンジがいた。なにか観察しているようで、ジェシカも隣に並んでくまを見つめる。
「“PX-4”……?」
「ジェシカちゃんも気づいたか」
「うん、これって――」
どういう意味なのか。そう言葉にしようとした瞬間に、一味の意識は一人の男へと注がれた。
「まったくてめェらやってくれるぜ!」
上空から現れたのは、両刃の大鉞を持った男と、たった今倒したばかりのバーソロミュー・くまが立っていた。挨拶も早々に、新たなくまの攻撃が一味を襲う。手のひらから発射された光線は、仲間を窮地に追い込む。
「ここは逃げよう!」
船長命令に、ジェシカを含め仲間は全員同意した。戦闘の疲労がかさむ中、その判断は正しかった。
「一緒じゃダメだ! バラバラに逃げるぞ!」
戦力分散のため、ルフィ、ゾロ、サンジは分かれて逃げることになる。ジェシカは手負いのゾロについて行くことに決める。
――多分この一味のなかで、まだ戦闘に従事できるのは私だ。
錬金術を世界にひけらかせばどうなるのか。結果はまったくわからない。しかし、仲間の命を守る為ならば、ジェシカはどんな錬成攻撃だってしてみせる覚悟だった。
ゾロに着いてきたのは、ジェシカの他にウソップとブルックだった。ゾロの体調を二人は言葉にしなくても心配している。
「みんな! 三日後にサニー号で!!」
約束が一つ、麦わらの一味に掛けられた瞬間である。何がなんでも三日、生き延びなければならない。絶対にくる未来など存在しないと考えながらも、この仲間たちならば、実現できるのではと考えていた。この時までは。
「追え! “PX-1”!」
戦桃丸の言葉に、ジェシカはハッとする。先ほど倒したくまは“PX-4”だった。新たにやってきたくまは、同じ体積、同じ質量のように見える。ナンバリングされているということは、増産されている可能性がある。そして、“PX-1”ということは、最初に造られたくまということだ。
ウソップが機転を利かせて、狙撃で煙幕をはびこらせる。その内に逃げる作戦にはなったものの、目くらましに苦戦するくまではなかった。即座に衝撃波を出して逃げ道を無くしていく。
――これ、逃げるよりも一人で応戦したほうがいいのでは?
ジェシカは背後に気をやりつつ考える。三グループに分かれて逃げたとしても、敵は二人。逃げ切れるのはたった一グループだけである。それでは効率が悪すぎる。
そう考えていた矢先、前方からやってきた敵にジェシカたちは反応しきれなかった。
まばゆい光とともに爆撃がジェシカたちを襲う。いち早く気づき対応できたのは、手負いのゾロだった。ジェシカは、ブルックとウソップがパニックになっている最中に、ゾロを起き上がらせる。ゾロの片腕を肩に担ぎ、立ち上がろうとするが、ゾロの体重が重いため上手く立ち上がることが出来ない。膝をついたまま、ジェシカは敵を見上げた。
「気をつけて! その男、『海軍大将』よ!!」
ロビンの言葉に、ジェシカは腹の底がヒヤリとした錯覚を覚える。大将ならば、それ相応の能力を持っている。太刀打ちできるかどうかさえ謎だ。
「ゾロくん、お願い……踏ん張って!」
ジェシカは一刻も早くゾロを逃がそうと、身体中に力を入れるイメージを持って立ち上がろうとする。しかし、ゾロは依然として自分の身体を操ることは難しく、ジェシカは立ち上がることが出来なかった。
「ゆっくり休むといいよォ〜」
呑気に話しかけながらも『黄猿』と呼ばれた男は、片足を上げて攻撃の構えをとる。すぐにでも攻撃ができる状態であるのに、いつまでも衝撃が襲ってこない。完全にこちらの慌てぶりを見て、油断をしている証拠だった。
サングラスをしていても眩しい攻撃の光に、ジェシカは目を瞬かせる。
「ムダだねぇ……わっしは『ピカピカの実』の『光人間』、自然系だからね」
ジェシカは立ち上がることをやめて、ゾロの背後に回って脇から腕を回し、引っ張ることにする。これならば少しでも移動が可能だ。必死になってゾロを引っ張っていても、『黄猿』からはお遊びのように見えただろう。
――どうする。ここでなんの錬成ができる? 錬成よりも、剣で応戦したほうが妥当じゃないのか?
ジェシカはゾロを引っ張りながらも思考をめぐらせる。足元の土で壁を錬成しても、強度が高いものは期待できない。むしろ攻撃を受けて破壊されて、その土の塊が自分たちの元に降り掛かって、ゾロをさらに痛めつけるかもしれない。
――なにが、なにができる!?
「今死ぬよォ〜!!」
「ゾローッ! ジェシカーッ!」
迫りくる『黄猿』の攻撃にジェシカは目を開けていられなかった。これ以上目を開けていれば眩しさで目が潰れてしまう。ジェシカはゾロを後ろから抱きしめながらギュッと目を瞑る。
ドン!! と大きな音に続いて衝撃音が遠くへ響く。ジェシカは瞼の裏で光が無くなったことに気づき、そっと目を開けた。
「レイリー、さん……?」
ジェシカは後ろに立っている男を見上げる。
「――あんたの出る幕かい、“冥王”レイリー!」
「若い芽を摘むんじゃない……これから始まるのだよ! 彼らの時代は!」
助け出してくれたのは、船のコーディング依頼を受けて別れた、シルバーズ・レイリーだった。
22,07.15