階の奥に進む廊下を抜けると、広めの空間が開ける。

5階から上は、教皇の陣術で動く歯車式の昇降機で移動するのが大多数である。たまにこの昇降機用の吹き抜けを、飛行可能な獣で飛び回るやつもいるが。

白い縦格子の篭のような箱に乗り、足元の方陣を靴でコンコンと叩く。乗り方はこれだけ。
あとは降りたい階で勝手に止まってくれる。
今回は執務室がある11階へ。

「念のため保護隊も向かわせましょうか」
「そうだなぁ、ムカつくだろうが…あ、向かわせると言えば」
「はい、なんです?」
「島に使いをやってくれ、北に術者が要る」
「それはまた、面倒な事になりそうですね」

話をしながら、ふと、足元から力が抜けていく感覚に襲われる。泥溜まりに浸かったように
ズルズルと体が重い。
なんだ、これ。

難しい顔をして扉近くに立つナイジェルの横に並んで、肩に頭を乗せて寄りかからせてもらった。
「…どうか、されましたか?」
「いや、」
恐らくこれは呪術の影響が大きいだろうな。自分の認識以上に堪えてるらしく、力は抜け続けて足元がガクガクしてきた。凍傷にも風邪にもなってない筈だが、何か変な寒気が背骨を駆け巡ってくる。
「…あっちは今、寒すぎて隊員が動こうにも難しい。ルネとアマデオが処理するから、人海戦術もできねぇの」
「すぐ連絡を出します。アマデオ東領長不在の東領にも補佐を出せるよう、オフェリア南領長には話を通しておきましょう。…ですので、もう少ししっかり立てますか?」
背中から腕を回されて、右脇に差し込んだ手でぐずぐずの身体を引き上げられる。
「いや〜…ちょっと無理っぽいからこのままで」
「…畏まりました。ですが、剣を置いたら医務室に…」
昇降機特有の浮遊感が収まって、ナイジェルが扉を開ける。がちゃん、と事故防止のための鍵が外れる音がした。
「あれー、副官様じゃん、どうし、…領長?!」
開けた先に居たのは戦闘隊の総隊長。ちょっと今は勘弁してほしかった。
「うるっせえなお前…人が疲れてんのに」
「いや、だ、だだって!大丈夫っすか?領長大丈夫?!どうしたんすか?!あ、あぁ剣持つ?!」
「大丈夫だから、大音量でワンワン吠えるな」
「わ、ワンワンとは吠えてないっすわ!」
「ウルバノ、ワンワンしてないでイージス様を医務室に連れていってください」
癖っ毛の金髪で大型犬の様なのでたまに"ウルワン"と呼んでいるが、騎士団にはだいたい通じるので、普段のこいつを察して欲しい。
「う、了解〜!…あれ、領長あっついっすね?」
「は?ウルが筋肉達磨だからじゃなくて?」
「全面的にちーが〜う!」
「やはり少々熱がございますね、任せましたよウルバノ」
やっぱこいつでかいな…悠々と俺を担ぐから勘に障るが、ナイジェルよりかは寄りかかりやすい。
「あ、ナイジェル、剣」
「はい、お預かり致します」
「申し訳ないが、あとよろしく。明日には回復してる予定だから」
「はい、どうぞゆっくりお休みくださいませ。事は進めておきますので」
その場で見送ってくれるナイジェルに、一度手を振って返し、昇降機に逆戻り。
閉まる音を聞きながら、ゆっくり意識を手放した。
相変わらず見栄っ張りすね、という声が聞こえてくるのを最後に、俺の1日が終わった。

うるせぇ。






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