適当に返してその場を任せ後にし、待合室奥の真っ白な大階段を上がる。


この教会本部の2階は、教会の各部署の仕事部屋が並ぶ回廊。
3階は同じく仕事部屋と会議室。4階は職員用食堂や仮眠室等が収まっている。
12階に教会礼拝堂で、騎士団の必要機関は5階から11階まで。13階は祭壇の間になる。

5階まではひたすら階段を上らなければならないのは正直面倒だが仕方がない。

4階から5階に上がる階段を歩いていれば、石造りの床を踏むコツン、という音が耳に届いた。

俺の副官だ。

「お迎えに上がりました、イージス様」
「ナイジェル」
「何やら騒ぎがあったようですが、ご無事ですか?」
中央では珍しい黒髪と眼鏡が特徴的な、ちょっとだけ俺より背が高い男はゆっくりと礼をして、俺の持っていた襟巻きと書類を受けとってくれる。

吹き抜けはここ、5階まで。
ここから下を見ていたのだろう。こいつは女性にやたらと人気で、下手に下りると面倒になるから、任務と緊急性が無い限り下に行くなと命じている。

「あぁ、農耕担当に絡まれてな」
剣を置きたいので、話しながら執務室へ。
「彼女ですか。昨日報告に来なかったのです。これで5回目なので、解雇の相談をしようかと考えておりました」
「まじかよ5回目?!そこは知らなかった!」
良くない話はある程度聞いていたが、そんなに報告が上がって来なかったとは。

驚いて歩いたまま振り向けば、渋面の副官が眉間を押さえていた。
「…恋人にかまけて、仕事を放り出して帰ってるだなんて、僕には報告出来そうにございません」
「お、おぉ…それは俺もちょっと聞きたくなかったわ…」
教会の仕事は基本的に5時に窓口を閉め、1時間ほどの業務整理や明日への引き継ぎ、報告を行う。
残業は殆ど無いし、時間外勤務は事務職員より圧倒的に騎士団員の方が多い。それなのにだ。
どんだけだよ…。
「報告怠りまして申し訳ございません」
「いや、いい。今まではなんとかなってたんだろうしな」
「はい。それで、如何致しますか?」
「あ〜…とりあえず人事と出入国審査の方に話通しておいてくれないか」
「…随分、派手にやったのですね?」
「あっちが怒鳴り付けて来るんだぞ、そりゃあなぁ…」
「おや、それは僕としても許せません。早急に対応致します。彼女は最近来た移民ですから、出国の方は何も問題無いかと」
あぁ、移民だったか。
ここに生まれ育ったやつは領長という役職に就く者の存在を、それがどんなものなのか痛いほど実感しているのだ。大勢の前であんな態度取ったら、何が起こるのかなんて想像に容易い。
筆頭神官は神の力の一端を授かり、領地と人民の繁栄を約束する存在。
実質的な最高権力と相応の武力を有している。
「はぁ…気安いのと無礼なのは違うんだよなぁ…」
「お疲れでしょう、湯の用意はしてありますから、早めにお休みになってください」
「あぁ、それは良いなぁ…ほんとお前、自慢の副官だよ、ライルは俺に冷たくて」
「あの子供は全く…」
「まぁ、主人はルネだからな、放っておけよ」
うちの副官に何かあったら困る。




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