滲むように広がり、様々な色がひしめく満天の星空だった。
気管を冷たい空気がするりと流れて、立っているだけで体温が夜風に解けていく。


その人は、頭から大きな黒い布を被っていた。
寒さに震え、積もった雪に引き摺った跡を残しながら、小さな石組の遺跡の様なものへ近づいた。
近くにはすらりとした別の人間が立っている。同じように黒い布を被っているが、あまり寒さを感じていないようだ。


会話は谷を通り抜ける風に掻き消される。
立ち並ぶ針葉樹のざわめきと遺跡の前に広がる湖が凍る音が、ごおごお、ぱきぱき、そんな音になって耳に届く。

少し離れたところからそれを見ている案内人が持った灯りは、ぱちん、と時折音を鳴らして存在を主張した。明るいと感じるのに、周りに漂う闇は光を飲み込むように迫ってくる。



黒い人間がゆっくり遺跡の周りを回りながら何事かを呟いて、布を編んだものを巻き付けていく。縄状のそれには、ぽつりぽつりと房が付いていた。




ごおおおおおん、




大きな鐘の音が聞こえた。
連なる山々の間を響き渡り四方から襲って来て、恐怖感を煽る。

「おい!拠点へ戻るぞ!ドラゴンの声だ!」

この足元を震わせる鐘の音は龍の声なのか、黒い人間は判別がつかぬが、案内人はこの地に住むものだ。信用できる。

途中だった術を結んで、そろりと離れた。
来たときと同じように布を引き摺り戻っていく。
三人分の足跡は降り始めた雪が掻き消すだろう。明日の朝には、きっと何も無い。
雪は音を吸い、形を覆い隠すものだ。
少しだけ振り返った黒い人間は安堵の吐息を漏らしたが、その背中は落ち込んだような空気を纏っていた。





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