山の向こう側、北領が大陸に接している所に存在している国は、南側が寒いという可笑しな気象に見舞われていた。

「行くって、バストラマ公国だったのか」
「まぁ、ちょっと情報貰いにね。うちの領をどうこうして少しでも影響がでるのはここしかないし、まず諜報課から嫌な知らせも貰ったから」
「嫌な知らせ?」
「そう。だから今から薬剤調合師の所へ行く。ガーデン爺はアマデオも顔見知りだろう?」

グラン・ガーデン薬剤局はバストラマ公国で一番の信頼度を誇る大きな施設で、東領の商団はそこに薬として使える鉱物を数種売っている。
ガーデン爺はそこの代表調合師だ。
知らない訳がなかった。

「ジェイ、ありがとう。また帰りもお願いしたいんだけど、」
「はいはい!待ってまぁすよぉ!帰りも最短距離ですよねぇ」
「うん、多分すぐ終わるよ」
「じゃあ、リア・アデーラの2合目の休憩所にいますよぉ、気を付けてぇくださいね」

ルネは上着の内ポケットから紙片で出来た手形を手渡した。これを後で教会に持っていくと案内料に交換できる。
道無き道の最短距離を最速と言っても良い早さで下ってきたとは思えないほど、足取り軽く、ジェイはリア・アデーラ山へ戻っていく。
その後ろ姿を見送って、アマデオは静かに口を開いた。こちら側はあちら側と違って人の通りが多かった。

「ルネ、すぐ終わるって?」
「バストラマ公国の南域で新しい感染病が流行してるらしい」
「感染病だって…?」
「それくらいしか“きっかけ”みたいなものに当たらないからね。それはそれとして、どうして此方に感染病の公的な知らせが来ないのか…」
「………事が大きくなって来てないか?」

苦々しい顔のアマデオを見やって、ルネはにっこり微笑んだ。
そうそう、この笑顔が可愛いとかなんとか北領に住む奥方は言うのだけど、アマデオとしては薄ら寒いとしか思えない。良いことなんて、付き合ってきてこの方10年あった試しがない。

「何言ってるんだいアマデオ。最初から大事だったじゃないか」

そんな事言われても。
領長になって片手で数えるほどの年数しか経っていないアマデオには、そこまで考えられるほどの経験は無かったのだ。








感染病のせいだろう、以前来たときよりも目に見えて人通りが少ない。
煉瓦の赤茶と漆喰の白が風化して落ち着いた、絵本の中の町並みのように明るい印象だった街。
今は商魂たくましい飲食店がぽつり、ぽつりと開いているだけ。花売りさえ居ない。

武器を持っている手前、乗り合い馬車には乗れないので徒歩で薬剤局に向かっている最中、ふと“この国の特徴はなんだと思う?”と、ルネが問うた。
「どんな、国か?」





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