壁面と同じく白っぽい木の扉を開けて進むと
、そこは待ち合い室になっている。広々とした中は大勢の患者が居るものの、話し声はほとんど聞こえずに静まり返っていた。

「大丈夫?人手は足りている?」
「正直、苦しいところではあるのですが…何分、調合師の中にも感染者が出ていまして…」

受付に聞いてみれば、それほど苦しい状況であるらしい。
渋い表情の彼女の目元には、ベタリと青黒い隈が居座っている。ほかの事務員も疲れた表情で診断書と向かい合っていた。

「ガーデン先生に面会でしょうか?」
「うん、でもこの感染病を正確に説明できる人であるなら、誰でも構わないんだ」
無理にあの人物を引っ張りだす必要は無い。
そう言った時、受付の奥の扉からのそのそと男が出てきた。80歳ほどだろうか。インクを飛ばした様なシミがぽたぽたと目立つ顔だ。
「私しかいないでしょうな」
「………ガーデン爺、いるなら最初から出てきてくれないかい?」
「北領長、お前さんには爺と言われたくないと何度言ったら分かるんだ?生きてる年数変わらんだろい。ちょいと休憩ぐらいさせろ」
よっこいせ、と事務椅子に座るとそのまま此方に話を促してくる。

「この感染症について、どこまで分かってるのか教えて欲しいんだ」
声を潜めると、同じように小さな声でガーデン調合師は話始めた。
「んん、そうなぁ。症状と進行を遅らせる方法は分かってんだが、決定的な回復薬の開発にまでは漕ぎ着けてねぇんだ」
「数ヵ月前にフレア大河沿いの水門が決壊したのが原因だろう?」
「ああ、十中八九な。症状は嘔吐と発熱、手足に出る斑点。この斑点は対処が遅れりゃそこから壊死を引き起こしてんで、てんやわんやだな。片手で数える程度だが、肉を削り落としたりせにゃいかん患者も出てる」
すぐ隣で仕事をしていた事務員が、ぐっと行き詰まったような顔をした。身体を休めることが難しいこの状況で、堪える事実だろう。

「今のところの治療は?」
「嘔吐と発熱は進行度に応じてそれぞれだな、斑点に関しては栄養剤とルーラ石だ」
「…ルーラよりはブルー・コルネリの方が、回復促進には良いはずですが、今月の分に入ってなかったでしょうか?」
「ブルー・コルネリはだいたい一緒に処方する解熱薬と相性が悪いんで、ほぼ手付かずになっとりますよ」
「そうですか…」
肩を落とすアマデオの隣で、ルネはきょとんとした顔で頬杖を付いていた。その視線に気付いて居心地が悪かったのか、アマデオはぎこちなく横を向く。
「な、なんだ?」
「…いやぁ、さすがだなと思ってね。ブルー・コルネリってそんな効果があるんだね」
「北領長はもっと勉強せんとなぁ。お前さん、硬度の低い濁った青色の石としか思ってなかっただろ」
採掘される鉱物は専門家に任せるので、領長に細かい知識は必要ではない。自領でどんな名前の鉱物がどれ程採れるか位を把握出来ていればいいのが普通である。
更に言えば、ブルー・コルネリは北領では採掘されない種類だった。
「うん。もしかして、最近僕に処方される青い粉薬ってそれ?」
「それは真っ青なものか?たまに白い粒が入ってる?」
「え、いや、青で黄色っぽい粒が入っているよ」
「…ルネ、寝不足なのか?」
「いかんなぁ、白ならブルー・コルネリとその効果安定剤だが、黄色は睡眠薬だぞい。何日か休んだ方がいい」
「黄色い粒でそこまで言い当てるのかい?」
「こちとら専門家じゃい」
どうやら寝不足なのは本当らしい。
実際、自領の調合師に休めと言われているが、この件でまだ休みなど取れない状況だった。
「そりゃ早う、どうにかせんとなあ」
「調合師が慌ててるだけでそうでも無いよ。で、他には何か無い?」
何か言いたそうにアマデオとガーデンは口をむぐむぐ動かしたが、結局は1つ溜め息を吐くだけで終わる。
「後は温度だな、採取した菌を冷蔵保存庫に入れておくと活動が弱くなる。更に氷点下で死滅する菌だった」
「!」
「それか」
「北領の気温が下がっとるんだろう?じゃなきゃ、此処がこんなに冷え込むことはない。確かに進行は殆ど止まって、新しい感染者は出なくなったが、此方が氷点下になる頃にゃ、北領に死者が出かねん。今、手を打たにゃあ…」
「っ、でも!」





- 15 -
*前 | next#



novel top
CURIOUS