「ルネ、」
「うん?」
「良かったのか、あの…」
何かもどかしそうにしていた彼女を、そのままに出てきてしまった。
「アマデオ、気を付けなきゃいけないことがあるから、聞きなさい」
出掛けた言葉を飲み込んだ弾みに喉がぐるる、と鳴った。わざとではなかったが、それがなんとなく彼に歯向かっているようで、少し戸惑ってしまう。
「神官だからと言っても抱えられる量には限りがある。確かにその限度は大きいけれど、抱えられない量を己の掌に乗せないことだよ。わかるかい?」
「彼女は、その限度の外側だったと?」
ひとつ、ゆっくり瞬きと深呼吸をして、ルネは硬い声を出した。
「今回必要なことは彼女の身の上話じゃないし、彼女の所属はこの国だ。僕達がどうこうするべきではない」
領長になってから身体に少しずつ溜まる神力はね、良いことばかりとは言えないんだ。
溜まるに従って自領の出来事が勝手に流れてくるようになるんだよ。最初は覚悟していても衝撃が大きい。
どこどこの森の中で事故が起きた。何々が病気だ。ひとり産まれて、ふたりが死んだ。どこかの崖で雪崩が起きた。
そういうことが漠然と、ぼんやり流れてくる。寝ていようが、起きていようが。
それを上手くどうにか出来るようになっても───あぁ、どうにかっていうのは人それぞれだよ───それでも、個人が見にくくなっていく。
「イージスだったら彼女の話を聞いていたかも知れない。けど、僕には無理だ。割り切らないと、僕の身が崩れていく」
そう、ルネは話した。
最近アマデオにも少しずつ、その徴候が出てきていたから、頷くしか出来ずに沈黙する。
頭の後ろの方から、たまにノイズが掛かったような音が聞こえてくる。話し声だったり、音楽だったり様々だが、明らかにアマデオの心身に良くない影響を及ぼしているのは確かだった。
「きっと、彼女はこの感染病のことで何か悲しいことがあったんだろうね、聞いてほしかったんだろう。周りも大変で、話せる人は少ないから」
「人の感情を受けきるには、確かに余裕が足りないかも知れないな…」
「そうだね、考えているよりも感情は重い。“想い”だなんて良く言ったものだよ。重すぎてオフェリアなんて倒れたからね」
「っえ?」
初耳だった。
夏神に愛されたオフェリア南領長はいつも元気で、騎士団の制服を着ていても海と太陽の香りを纏っている。
「想像できないだろう?オフェリアが青い顔でどんどん痩せていくんだ。南領は元々、民の気が強いから」
領長とは何か。
神の力の一端を授かり、領地と人民の繁栄を約束する存在。
その、はずだ。
「分かったかい?気を抜けば此方が駄目になる。必要なことを、選びとれるようにしなさい」
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