神の半島。
世界を創造したという神々が司る土地。
その半島で唯一大陸に接した土地が北領だ。
北大陸から巡礼の旅をするものは、まず始めに標高が高く険しい山々に目の前を塞がられる。
巡礼の最初の難関。
故にその旅を神聖なもの足らしめる冬神の庭。
「はぁ」
「ため息付かない」
「…」
「不用意に呼吸を乱すと喉が凍るよ」
「それを早く言ってくれないか」
この山に外から登るには1つだけだが、北領から登るには幾つもの道がある。2人はその中で教団関係者が使う道を進んでいた。
「第一、なんで僕なんだ?キケのほうが若いが経験豊富だろう?」
「あのね、キケは西領生まれの西領育ちだ。こんな寒さ、例え神官だとしても精神的に耐えきれないよ。相変わらず、君は悪い方に考えるね」
「キケなら喜びそうだが」
「…あの子の被虐趣味は置いておいて、"坑道の神"と言われる君なら僕よりも山について詳しいから。妥当だと思うけど?」
慢性的な隈を作った顔を不満気にぐしゃりと歪めるアマデオを斜め後ろに見ながら、いつもの防寒服で歩いている。
対してアマデオは普段の服に高山帯の民族衣装を纏っていた。
普通はもっと重装備を麓の村で揃えるのだが、彼も東領の神官なので、見た目だけはルネとそう変わらない。
アマデオのほうが中に着込んでいるが、他の登山者から見ればぎょっとするような薄着だ。
黙々と歩けば段々と標高が上がり、雲が薄れ、雪が少なくなってくる。
急だった坂道も緩やかになったところで、丸太で出来た大きな家が見えてきた。
ここは山腹の広大な平地と湖を利用した休憩地である。
「久しぶりに来たな」
「そう?東の拠点には行くだろう?」
焚き火のある方に向かえば、こんな時の不運な巡礼者に混じって話をしていた壮年の男が、ふと此方を振り向いた。
「あぁーっ!ルネ領長!アマデオ坊もおるなァ!」
「おお、領長!なんか用だかァ!」
「お久しぶりです」
「中入りなァ、領長はともかく、坊は冷えたろうよなァ」
「僕はともかく、って酷いな。一応寒かったよ」
(そうやって一応って言うから…)
心の中でひっそり溜め息を吐いて、ぶすっと不貞腐れた顔をすれば横にいた別の男が気付いて笑った。
高山焼けした色黒の分厚い手でバンバンとアマデオの背を叩いた男が、入口へ連れていく。
「ルネ領長、御目にかかれて光栄です!」
「きゃー!東領長、寒くないんですか?!」
「なんだいアンタ、東領長のこと知らんのかい」
「領長、今年の氷も上手く出来てるよ!シャレットが馬鹿売れしそうだ!」
中に入ろうがなんだろうが、声をかけられ方が尋常ではない。
正直アマデオはこの時点で疲れていた。
ここの小屋に集まる人間は寒さに強くて元気過ぎる。
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CURIOUS