芯まで冷えた食道を暖かいキヨネラ茶が滑ると、じわじわと呼吸が軽くなる心地がする。この薬草茶はこの山の生命線と言ってもいいかもしれなかった。
「ものは相談というか、聞き込みなんだけど」
「ハイハイ!私らぁでよければ、なんでもぉ答えるよぉ!」
「ありがとう。…この気象の件で聞きたくてね」
「その件ですか。丁度良かった。最近俺らも困ってるんです、今朝、1人が沢に滑落した」
「っえ?!」
「なんだって…」
ブラングスタは元々この高山帯を居住区とする民族だ。
この地に訪れる者は、登山家や巡礼者、時に他国の使者まで、ブラングスタを信頼し旅の補助として雇う。
そんな者達の中で滑落する者がいるとは。
「なんで…そんな」
声を上げれば、今まで黙っていた他のブラングスタも困ったように囁きあう。
「なんでってぇ、…なぁ」
「オレらもなぁ…」
ことん、とその困惑した空気を払うようにマグを置いたヴァンクは、1つ溜め息を吐いて話し出した。
きっと、救助に当たったのだろう。よく見れば少し疲れが滲み出ていた。
「今までにない寒気で、本来崩れるはずがなかった場所の植物の根が腐ってぼろぼろだったんです。運悪くそこを踏み抜いた」
「昼間はぁ、直射日光が強ぉくて、寒暖差に耐えきれんかったんだぁ、きっと。この時期にあぁんな枯れ方、おかしいもん…」
「っ、その者は?!」
「助かっています。脚を骨折していますが、まぁ、あいつは体重移動が上手いので、多少受け身でも取ったんでしょう。綺麗に折れてましたから回復も早いかと。…アマデオ、俺たちを舐めないでくださいね」
基本的にブラングスタは自分たちの能力に自信を持っているので、どうやらアマデオの反応には少し引っ掛かるものがあったらしい。
押し黙るアマデオを横目に、ふん、と不遜な態度のヴァンクはこれでも登山家に人気の同行者だ。
「助かって良かった。今なんとかするから、もう少し頑張ってくれないか」
「もっちろん!」
「ここはぁオレらぁの家ですしなぁ!」
「ありがとう、あともう一つ」
「あ、その前にお茶のおかわりどうぞぉ」
透明なポットの中、網の袋にたっぷり入ったキヨネラの葉と花が開ききってぽかぽかと湯に浮いている。
少し味が濃くなったお茶を一口含む頃には、既に身体は暖まっていた。
「今月に入るころ、誰か他国の呪術者を案内してないかなと思ってね」
「呪術者ぁ?」
「いた?そぉんなの」
顔を見合わせて不思議な顔をしている。
登山記録に出身地や連絡先を仔細書くようになっているので、記憶が無くとも記録があるはずだが、できれば案内した本人がいた方が都合が良い。
記録は改竄される。
「どうしてです?」
「メア・ゴルド山の麓にある祭壇に術がかかっていた。あの祭壇は教会か案内人しか知らないだろう?」
「メア・ゴルドの麓なぁんてぇ、こっちから行くのぉも一苦労じゃなぁいですか!メアドラゴンの巣だって近いしぃ…」
「そんな物好きいたらすぐ分かりますが…いたか?そんなやつ」
部屋のあちこちから、いや?だの知らんなぁ、だのと声が上がる。
「今日いる奴らぁにはいなぁいみたいですよぉ」
「そうか…」
「こちらでも探しましょう。今いるのは登山家や専門家相手にする奴らなんです。村に戻れば、巡礼者を相手にするのが待機してますから」
「そうなぁ、あいつら今悠々と休んでっからなぁ」
「そうか、祭壇に行きたいなんて言うのは巡礼者だけだな」
「身をやつすならそうするだろうね。では任せます、ブラングスタの民」
「承りました。分かり次第お知らせします」
マグの中身を飲み干して立ち上がる。
ブラングスタの民は村の場所を明かさない。村人以外の立ち入りは許されないのだ。
それがこの地の神々に仕える神官だとしても。
「では僕はこのまま東に降り、」
「何言ってるんだいアマデオ」
「え」
「案内お願いできるかい、ジェイ」
「おまかせぇ!」
「待て、どこに行くんだ?!」
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