「何をなさっていたんです?!寒冷対策の話で北領行ったきり一晩なんて!昨日から補助要請がこんなに認証印待ちだと言うのに?!」

あーぁ、陽が落ちる間際にようやっと中央に帰って来れたと思ったらこれだ。護身用に持っている剣がやたらと重く感じる。
沢山の視線がぞろりとこちらに向くのを背中で感じた。
「あのなぁ、お前、猛吹雪の氷点下に動かないリムノスキア動かして帰って来れんのか?」
ライルが可愛く思えてくるな。
香水がキッツいし、清潔感とは遠い厚化粧のこの職員は怒りっぽくて話が通じないというか、何も考えてないんじゃないかってほど考え無しだ。
金切り声も煩いし最悪。
冷えきった耳に体温が戻り始めた今、じんじんと痛ぇのに。
生産者からの作業補助要請は確かに滞ってるようだが、仕方がない。

筆頭神官は死なない訳ではない。
老いない訳ではない。

神の愛し子としての能力と寿命は授けられるが、言ってしまえばそれだけ。
凍死だってする可能性はある。

「生産者の組合には事前に通達している。北領に原因追求のため行ってくるから最悪3日は認証が滞ると」
「え、あら、私聞いておりません!」
「通達文書はお前に預けたはずだがどうした?それに当たり前だ。俺が半日そこら出るだけであーしろこーしろなんて、いちいち通達しない。ただお前が怠けて動かなかっただけだ」
「な、…なんですって?!」
なんですってじゃねぇよ。
そろそろ解雇かな…。
他の職員も隊員も皆我慢した方だろ。
真っ赤に縁取られた唇をわなわな震わせているが、まぁ、図星だな。

「領内管轄窓口の職員は原則、領長副官への報告義務がある。俺の副官に仮認証印を持たせてあった。1日の総括報告時にこの要請の事を報告すれば、ここでこんなに溜まってる事は無い筈だ」
現に他の業務は滞りなく行われていた様で、運送業者の管轄官はうんうん、と首を振っている。

こっちにまで血の気が引く音が聞こえてきそうなほど、顔が白くなっていく。同時に少しキョロキョロし始めるが、こんな人通りの多い、吹き抜けの大待合室で自分から注目を集めていれば、世話ぁ無い。

見栄を張って、俺を怒鳴り付けて何がしたいんだ。農耕生産者窓口にしたのは間違いだったな。
「仮認証があれば実働隊の編成が組めた。昨日から、って言ったな?お前が持ってる紙の束の半分以上は、正式な手続きを踏んでいれば、今頃最終認証待ちで副官の手にあるはずだぞ」

視界の端で、麦の生産者商会の代表者が懐疑的な眼差しになるのが見えた。
帰りがけだったのに、もしかしたらもう一度窓口に行かなければと思っているかもしれない。
「これは俺が預かる。お前は帰って頭を冷やせ」
「あ、で、ですがっ!あの、このあとの仕事…」
「何か、ここにいる市民の信用が回復できる様な申し開きが出来るのか?」
「………あ、……」
普段ならざわざわと煩いほどの大待合室がしん、となる。
この空気は大嫌いだ。
只でさえ、領を預かる身として要らん事まで受けなきゃいけないのに。

黙っていれば、窓口の中の控え室に続く扉に向かって走り出し、大きな音を立てて大待合室を出ていった。






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