「…サラ」
「ひぉっ?!は、はい?!あ、え、なんで私の名前知って…?!」
「入ってもう1年の筈だ、窓口対応できるだろ?」
「えっ、え?!あたしですか?!」
声をかけたのは、あの女の下で補佐をしている教会職員だ。
隣の飲食店組合の窓口担当が優秀なので、そっちから手助けされて、なんとかしがみついていてくれたらしい。それに、あの女が怠った報告や業務をしていたのはサラだ。それは隊員から話を聞いていた。
手本となるべき直属の先輩がもういないのでは不安だろうが、やってもらうしかない。
「あ、あのイージス領長、そんな、私、」
「申し訳ないがやってくれ。今までの内容は書類あるな?ミレーナ、アラン」
担当印を押しながら振り向いたのは垂れ目の若い女性と、その補佐職員。この二人が飲食店組合の窓口担当をしている。
「はいはい、わかってますよ領長。サラ、大丈夫!手伝うからね!」
「は、はい…!」
なんとかなりそうなのを確認すれば、待合室に他の音が戻ってくる。
それに合わせて音量を落とした。
「現場に立ってねぇ俺から言えるのは少ないが…誠実に、落ち着いて、相手の話はちゃんと聞け。早めに補佐を探させるからな」
「は、はい」
「そうそう、領長だってこんなだけど、ちゃんと外交できてるでしょ?」
「あらまぁミレーナちゃん、駄目よ、そんなこと言っちゃ!」
「え〜、女将優しいですね〜」
「おい、コラ。女将もやめてくれ」
ミレーナは勤務年数の割に俺に気軽過ぎる。
アランはそれを見て爆笑してるが、こいつら覚えてやがれ。
「はぁ…ちょっと、引き継ぎ期間は取れなさそうだ。重ね重ね申し訳ない。場所移動しとけば良かったな」
「いやぁ、むしろイージス領長の威厳のために、あそこはこの場でコテンパンにしてくれないといけませんって」
しゅ、と右手を突き出して格闘技の物真似をするアラン。
「そうですよ、最近書類のまとめとか、全部私がやってたんです!頭に来てたんですから!…まぁ、不安ではありますが、ミレーナ先輩もアラン先輩だっていますし…」
「大丈夫、ちゃんと仕事できてたよサラ!…おっと、はい女将、お待たせしました」
「ありがとう。ミレーナちゃん、また来るわね!領長も、北領に行って来られたのでしょう?早くお休みなさいな」
にこにこ笑って去って行く女将は何だか知らんがご機嫌だ。まさか今晩の酒の肴にされるのか、これは。
飲み屋街は嫌いじゃないが、絡まれるのは勘弁してほしい。あそこは何年経とうが俺のことを子供扱いするし。
「あぁ、そうだ、生産者への通達もありがとうな。話は聞いている」
「いえ、あの人すぐ帰っちゃったので…」
目線を下に流すのを見て、どうやら俺が把握してるよりもマズい状況らしかったのを理解した。
今日から少しは気が楽になるだろうと思う。
「あ、あのぅ、イージス領長、さっき手続きした麦の組合の者なんですが…」
「あぁ、申し訳ない、不安にさせただろう?サラ、よろしく」
「はい!先ほどお話はお聞きしておりましたので、一応確認だけさせて頂けますか?」
目の上のたんこぶが居なくなってさっぱりしているのか、サラは覇気のある元気な声を出している。
もちろん1ヶ月ほどは色々大変だろうが、この調子なら問題無さそうだ。
ふとミレーナとアランを見やると、楽しそうに良い笑顔で親指を立てて来た。アランなんて両手で。
…こんなだから飲食店組合から人気なのか?
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