静寂は白に似る
灰を帯びた雲は、白を降らせて地上へ静寂を招く。雲と雲の間から除く月は、ゆったりと十字架を照らしていた。それは、この教会に神が降りてきたかのような不可思議で、それでいて洗礼を受けているような気さえもってしまう。
「主よ。私の前に現れているでしょうか……?」
ひんやりと冷気を帯びた空気は、真っ黒な祭服越しに肌をちくりちくりと刺してきたが、ギルバートにとってはどうでも良くて。今は、月明かりでふわりと優しく輝く十字架を双眼に収めることが先決だった。
雪が降っていることで、ゆらりと揺れる月光は意思を持っているかのようで何かの意思が反映され、この教会内にギルバート以外の何かいるのではないか?とさえ、錯覚してしまう……それが、皆が『神』と崇め奉る存在だったらどんなに幸福だろうか。
――こんなに貴方を求めたのは色を亡くす前の『あの日』以来だ。
ギルバートは、掌に収まっているそれをもう一度握り直した。
ひたりと、喉元に当てたそれは冷たいどころか人の指先みたいで温もりがある。
「もし、目の前にいらっしゃるのなら……この上ない、幸福です」
――ああ、こんなに胸の内が多幸感で埋め尽くされたことなんてあっただろうか?ふふ、きっとないね。でも、この先も。
「また、会えるね。父さん、母さん」
月色はより一層、強くなる。
男は、嬉々として笑う。
目尻を下げ、やわらかく、やわらかく。
瞳の奥は、甘さを含んで。
そして、喉に元にナイフを食い込ませた。
『幸せだね』――この声は誰だっただろうか?
ゆらゆらと瞬く月光、薄れゆく意識、頭に響く甘やかな声、もう、なにも考えなくてもいい。
静寂を抱いた夜は、やはり静やかだ。
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