カンタータの宝石_04
 甘い豆花の後ろからかけてくる言葉への返事もおざなりに、あずきは公園を駆けていく。今日は少しだけ遠出をして、二人で大きな公園へ遊びに来たのだ。遊具や大人向けのアスレチック、いくつかの露店にスイーツの移動販売店。活気づく公園の様子は、足早に動かすあずきへの更なる原動力になり胸を弾ませてくれた。
 ふと、甘い香りが鼻先を掠めその先に視線を向ければアイスクリームの露店が目についた。「おいしそう!」と、声を上げた瞬間。前方を見ていなかった為に誰かへぶつかり、そのまま跳ね返され尻餅をつく。
 少しだけおしりはじんわりと熱を帯び痛みがあるが、そんなことよりもあずきの目を奪ったのは自分の物とは違う長い絹糸のような金髪。風に遊ばれる度に、その髪は輝きを放ち夜でもないのに星を見ているかのようだった。

「ごめんなさい、大丈夫かしら?」

 ゆったりと振り返ったその人物は、深い海色を悲しげに揺らした。あずきの目線へ合わせるように膝を折っては、心配そうな表情で覗き込んでくる。海の色がまた濃くなり、あずきの心臓がドキリと声を上げた。

「どこか痛い?怪我でもしちゃったかしら?」
「いたくないよっ、あずつよいもん!」
「あら、そうなの。お利口さんな、Lapinouなのね」
「らぴにゅ?」
「違うわ。ら、ぴ、ぬぅ――『子ウサギちゃん』って意味よ」

 小首を傾げるあずきに、少女はクスクスと笑う。あずきは、助け起こしそのまま服に着いた埃を払ってくれる少女をじっと見つめる。露店に目を奪われていたが、微かな意識は前に向いていた。この少女は、確かに自分の目の前にいただろうか?ぽっと何もないところから湧いて出てきたかのようで、不思議な気持ちを抱いたあずきは更に首を傾げた。

「おねーさん、どこからきたの?」
「遠い所よ。飛んで飛んでまた飛んで、絵本の中を行き来しているみたいなそんなところ。次は誰に会うのかしら?色狂いの人魚?お人形な人形師?ピアノ伴奏者の黒猫?裸足で逃げ出したお姫様かも」
「?、あず……むずかしいことわかんない……」
「まだ分からなくていいの。だって、貴女は無垢で――違うのね。『ピンクサファイア』ばかりかと思っていたけど誰の影響かしら……『タンザナイト』なんて似合わないわ」

 そっと影を落とした少女の声を遮ったのは、あずきの後を追いかけてきた甘い豆花だ。
 甘い豆花はあずきを引寄せて、見知らぬ少女を見やる。会話もしてもいないのに、この違和はなんだ?周りに流れる空気が、止まっているかのように息苦しい。

「何か用?」
「『オーロベルディ』に『ピンクサファイア』……気持ち悪いくらいに主張してくる『タンザナイト』……本来の色を隠してしまうくらいの物は嫌いだわ」
「何それ。君、白昼夢でも見てるんじゃない?」

 甘い豆花の言葉に少女はくすくすと笑い、ビー玉ほどの大きさのピンク色の石をあずきに差し出した。ころりと、白磁器みたいな色の少女の掌に転がっている石は魅惑的で、甘い豆花の制止も聞かずにそれを手に取った。

「『スターローズクォーツ』きっと貴女の助けになるわ。……夕景の色には気を付けて」

 ザッ、と一迅の強風が二人を襲い、反射的に眼を瞑った。ゆっくりと太陽の光に当てられながら眼を見開けば――「おねーさん?」ぽつりと、呟いたあずきの声に応えてくれる人物は、忽然と姿を消していた。



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