10
あの日から早2週間、江戸川コナンくんにも会わないし赤井秀一さんにも会わない。つまりはどういうことかというと私の周りで事件なんてものは一回も起きていない。素晴らしい。無事大学のテストも終わり、卒業できる単位を取り終え、今はお気に入りのカフェでカフェオレ片手に本を読んでいる。
平穏万歳と思っているとその平穏を打ち砕くものがやってくるとはよく言ったもので、同じような文章を考えた今読んでいる本の作者を褒め称えたい気分になる。
コンコンと机を叩く音と共に顔を上へ上げると赤井秀一がとても絶好調ですとは言えない顔でこちらを見下ろしていた、さよなら平穏な日々。
「お久しぶりです。」
「なぜ、電話をしてこない。」
「だって、おかしなことは起きていませんので。」
「起きてなくても定期報告をしたらどうだ。」
「私とあなたは上司と部下の関係ではないですので、連絡する義務はありません。」
「ほー。」
そう言って向かいの席に座った彼はタバコを一本吸い始めると店員に自分の分のコーヒーを頼んでいた。店員が少し頬を赤く染めながら戻っていくのを見るに、この赤井秀一という男は巷ではかっこいい部類に入っているらしい。私には到底わからないが。
「何を読んでいる?」
「本です。」
「見たらわかる。」
「一人の青年が闇に追われて逃げているんです。いろいろな世界を渡り歩いていっときの平穏にその身を任せて目をつむり幸せを感じているとその平穏を壊すものが現れて、青年はまた自分を知らない世界に逃げていく、青年は自分に幸せはあるのかと模索する。」
「?」
「本の内容です。」
「君は俺が平穏を壊すものと?」
「そんなことは言っていませんが、そうなんですか?」
「遠回しに言われているような気がしたのだが。」
「そう思われたのなら謝ります。」
「謝罪が軽い。」
悪態を付くなか運ばれてきたコーヒーに口をつける赤井秀一はまだ読んでいる途中の本を取り上げた。
「ちょっと。」
「少し話をしたい。」
「・・・何でしょう。」
「車に来てくれ。」
「わかりました。」
荷物をまとめカバンから財布を出そうとすると、私のレシートよろしく、全て赤井秀一に持って行かれた。どうやらおごってくれるらしい。ごちそうさまです。
「自分の分くらい払えます。」
「いや、話をしてもらうんだこれくらいは出すさ。」
「荷物も。」
「気にするな。さぁ、乗ってくれ。」
当然のごとく助手席のドアを開け私を乗せる、その行動はまさしく紳士的な行動であって、今の世の中の男性諸君はよくよく彼の行動を見習ったほうがいいと思う。決して彼がかっこいいとは言っていない。
しばらく車を走らせていると人通りの少ないところで車は止まった、相変わらず紫煙が車のなかと外を舞っている。
「聞きたいことって何ですか?」
「組織についてなにか調べたのか?」
「あー、少しだけ。」
「形跡を残すような調べかたは?」
「してないです、甘く見ないでください。」
「そうか。」
「何かあったんですか?」
赤井秀一さんの話を聞くに、組織にスパイとして潜入しているCIA捜査官から連絡があり、組織の情報を盗もうと何者かがコンピューターに潜入した形跡が残っているらしい。私がハッキングまがいなことをして赤井秀一さんや江戸川コナンくん、安室透さんの情報を手に入れたことからそういったことを危惧してくれたらしい、なんて優しい人なんだ。
でも一言言わせていただきたい。そういった情報が入ったのなら私のところに来るべきではないのだろうか、だってあなたは組織に顔が知れているし、私とあなたが会っている所を組織に見られたらまず間違いなく私が狙われるだろう。何をしているんだFBI。
「大丈夫ですよ、そんなことしてたら仕事になりませんから。」
「そうか、いらない心配だったようだな。」
「でも、なんで私の所に?」
「?」
「ハッキングをしている人ならFBIやそれこそCIAにもいるはずです、そちらをまず危惧した方が良い気がします。」
「そうだな、なぜだろう。そういう情報がきた時まず君の名前が浮かんだ。」
「心配してくれているって事ですか?」
「・・・あぁ。」
「ありがとうございます。」
小さく頭を下げてお礼を述べると彼はタバコを吸っているのとは反対のそれを私の頭の上に開いた。
「本来なら今君に近づく事自体危険なのだが、すまない。」
「いえ、とんでもないです。心配されている内が華とも言いますし。そういった事が起きて私の事が浮かんで、こうして来て下さっただけで嬉しいです。」
「そういって貰えて何よりだ。」
- 10 -
*前次#
ページ:
ALICE+