「私は今の家庭とは別の家庭で一度生まれました、今の家庭よりも少し裕福で両親と私、3人で仲良く過ごしていました。勉強が周りよりも好きだった私は警察学校を卒業したのち公安局刑事課情報統括1係に入りました。私のハッキングの腕はそこで磨きました。何も問題なく社畜で馬車馬のように働いていましたが、ある時両親が交通事故で死にました、それからしばらくは一人でくらいしていたはずなんですか、気がついたらこちらにいました。」



「気がついたら?」



「生まれ変わっていた、というのが正しいんだと思います。」



「どうやって生まれ変わったの?」



私が首を横に振ったのを見て江戸川コナンくんは前のめり担っていた姿勢を戻し、再びソファにもたれた。



「だが、それだけでは沖矢昴を不審視する理由にはならないな。」



「そうですね、私のいた世界にも漫画があるんです。《名探偵コナン》これがこの世界を模した漫画のタイトルです。」



「俺たちが?」



「そうです、赤井秀一さんのことも江戸川コナンくんのことも、もちろん安室透さんのこともその漫画には出てくるんだと思います。」



「思いますって、どういうこと?」



「私、しっかりとその漫画を読んでいないので詳しくはわからないんです。私が知っているのは江戸川コナンくんが洞窟で銃で撃たれたところまで。その間も結構曖昧なのであまり詳しくはわかりません。」



「車での移動中、ジンとウォッカたちについて知らないと言ったのは?」



「知っていると言ったら怪しむと思って、でもウォッカという馬がいるのは本当です。」






そうしてしばらく質疑応答を繰り返し二人は私が黒の組織ではないこと、この世界に自ら進んでやってきたわけではないこと。沖矢昴を不審視した理由は自分が知っている原作の中で沖矢昴という人物が出てこなかったことから不思議に思い調べたこと。それら全てを納得してもらった。時間も時間だし家に帰ろうかと荷物を持って腰をあげれば赤井秀一さんが送っていくと私の荷物を持って車へと向かっていった。



その姿で外に出て大丈夫なのだろうか。



江戸川コナンくんも一緒に送ってもらい、毛利探偵事務所の前で車を止めた。



「ポアロだ。」



「喫茶店が珍しいのか?」



「いえ、本当にあのポアロなんですね。」



「・・・そうだな。」



何が「そうだな。」なのかはわからないが深く追求してこないことに対して心の中で小さく俺をいい、江戸川コナンくんを下ろし、私の家に向かう。
車のなかも赤井秀一さんは終始無言で少し気まずい空気が流れている。



「あ、ここら辺で大丈夫です。」



「遅くまで捕まえたままで悪かった。」



「いえ、大丈夫です。」



「・・・一つ聞いてもいいか?」



「はい。」



「俺たちにお前の秘密を話して、俺たちがそれをどこかに口外することは考えなかったのか?」



「考えてません。だって私だって貴方達の秘密を握っている。そして貴方達は私の秘密を握っている、とてもフェアな状況じゃないですか。」



「そうだな、変なことを聞いた。」



「いえ、大丈夫です。」



「少なからず俺たちと関わりを持ってしまったことには変わりない、組織の人間が君にコンタクトを取ってくることないとは言い切れない。」



「承知の上です。」



「何かあったらこの番号に電話をしてくれ。」



「え?」



「プライベートの方の番号だ、すぐには出られないがメッセージを残すなり着信を残すなりしてくれれば折り返す。」



手には赤井秀一の携帯番号が書かれた紙が握り締められていた。世の赤井秀一ファンならのどから手が出るほど欲しい代物だろう。しかし、今の私いとってはいらない紙切れだ。どうせならもっといいものが欲しい、平和とか、自由とか。



「あ、ありがとうございます。」



「では、またな。」



「はい、お気をつけて。」



そう言うと車を走らせて赤井秀一は行ってしまった。
ちょっと待って頂こうあの人今「またな。」って言っていた。ということはまた私と会うということだろうか、それとも電話に対しての「またな。」なのだろうか、絶対に電話なんてしない。



平穏な日々のなんと美しいことだろう。



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