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組織に形跡を残したのが私ではないと安心したのは赤井秀一さんは来た道を戻るために車を走らせた。もう少しで私の家に着くという時、赤井秀一さんの携帯に電話がかかってきた。かけて来た先を見ると私に携帯を渡す「スピーカにしてくれ。」というので言われた通り通話を押し、スピーカーに切り替える。
赤井さん?今どこにいるの?
「ボウヤか、どうした?」
ジンの車が駅前通りを通って行ったんだ。
「すぐ追いかける。」
米花公園の辺りに向かって行った。
「わかった、申し訳ないがボウヤを拾っている時間はないが。」
大丈夫、僕は自分でそっちに向かうから。
「わかった、切るぞ。」
携帯を切ると赤井秀一さんは申し訳なさそうにこちらを見た。
赤井秀一さんに携帯を返し前を向く。
「すまない、家に送り届ける前に寄り道をする事になった。」
「構いません。」
車はさながらレーシングカーのごとく他の車を追い越していく。運転が荒いとかそういうわけでは決してないのだが、遊園地のジェットコースターに乗るよりも風を感じているような気がするのはなぜだろう、私死ぬかも。
これなら遊園地に誘われた時「絶叫系苦手だから」と言って断った時残念そうな顔をした友達に謝りたい。ごめん、あんなの絶叫系に入らないから。今私が置かれている状況こそ絶叫系の何者でもないから、今度遊園地行こうね。一回転するやつでも逆走するやつでもなんでも一緒に乗ってあげるから。
「どこだ。」
「車、なんの車ですか?」
「ポルシェ356Aだ。」
「すいませんわかりません。」
「黒い車なんだが。」
江戸川コナンくんの言っていた米花公園まで来たもののそれらしき車はないようで、赤井秀一さんは小さく舌打ちをしていた。普段乗っている車のスピードとはなんだたのだろうかと疑問を感じつつ外の空気を吸うために窓を開けふと右側に目を向けると、先ほど赤井秀一さんが行っていた黒塗りの車が路地裏を走って行った。
「赤井秀一さん!車、黒い車があそこの路地裏に!」
「356A、ジンの車か。」
ハイスピードこんにちは。通常では絶対にありえない車線変更を見せた赤井秀一さんの車は黒塗りの車を追って路地裏に。だが少し遅く路地裏を抜ける頃にはその車は姿を消していた。
またしても赤井秀一さんの舌打ちが響く車の中に携帯の音が響いた。
「ボウヤか、すまない。取り逃がした。あぁ、わかった。」
どうやらハイスピードで飛ばす車を見ていたのか江戸川コナンくんがこちらに来るらしい。どうしよう、事件が起こる、絶対に。
というか事件がこう起こっているではないか、組織と関わらないよう気を使ってくれていたであろう赤井秀一さんに連れられ今、組織の車を追っていたということは否が応でも私は組織を追うという名目で動いている彼らの枠の中に足先だけでも入ってしまっている。さよなら私の素敵学園生活。
「赤井さん!」
「すまない、ボウヤ。」
「大丈夫、でもなんでこんなところにあいつらの車が・・・。」
「今朝、組織に潜入しているCIAの捜査官から連絡が入った。どうやら組織のデータを盗もうと彼らのパソコンに潜入した奴がいるらしい。」
「それって、蜂谷のお姉ちゃんじゃないよね。」
「違うよ。」
「あれ、蜂谷のお姉ちゃんなんでいるの?」
「赤井秀一さんに連れ去られた、拉致です。」
私がこの場にいること自体に驚いたような顔をした江戸川コナンくんは「拉致?」と小さく声を漏らす。
「拉致ではない、用があって彼女のところに行った。」
「そうしたら、江戸川コナンくんから電話があって一緒に車に乗ってた私も一緒にここに来たってこと。」
「そうなんだぁ。」
「今度こそ家まで送ろう。」
「ありがとうございます。」
流れる景色を横目で眺めながら車内の匂いが鼻をくすぐる。
この車は赤井秀一さんが吸っているタバコの匂いで満ちている。別にタバコの匂いが嫌いといわけではない、むしろ父親も兄もタバコを吸っていたのでこの匂いはかなり落ち着く。
目を閉じて鼻から通るそれに酔っていると後ろから江戸川コナンくんの声がした。
「赤井さんなんで蜂谷のお姉ちゃんの居場所がわかるの?」
「俺の携帯の番号を渡したからな。連絡はくれないが。」
「危ない場面なんて一度もなかったので電話をしなかっただけです。」
「定期報告は大切だぞ。」
「赤井秀一さんは私の上司ですか?」
「僕もお姉さんと番号交換したい!」
「遠慮します。」
またもやコンマの早さで江戸川コナンくんの誘いを断る。
こんなクソガキと連絡を交換してみなさいよ、「キャンプに行こう=殺人事件」「スキーに行こう=殺人事件」「海に行こう=殺人事件」である。もう「江戸川コナン=殺人事件」な方式を作ってもいいんじゃないだろうか。
そんな大変失礼なことを考えていると後ろから演技をしているであろう匂いを漂わせながら江戸川コナンくんが私に向かってこう言う。
「え〜ん!僕も蜂谷のお姉ちゃんと携帯番号交換したい〜。」
「おやおや、どうやら泣かせてしまったらしいな。」
運転席でタバコを吸いながらこちらを横目に普段とは比べものにならないような微笑を浮かべながら赤井秀一さんは
面白そうに後ろを指差す。
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