赤井秀一サイド



「さようなら、私の家族を殺した初めての恋人さん。」




情報収集を生業とする彼女の事だからいずれは真実にたどり着く事があるとは思っていた。もし、たどり着かないようなら自分から話す覚悟だってしていた、大切なのはタイミング。そう考えるとあれは最悪のタイミングであった。




組織に生きているとバレてはいけないため全ての幹部を取り押さえた後そちらに合流する手筈になっていた。倉庫のシャッターが開いていき、誄とジンが何かを話しているようだと連絡が入った時にはさすがに海洋娯楽施設で誄が人質になっている時以上に肝が冷えた。あの冷徹なジンの事だ、一度殺そうとした相手が生きていると分かった以上また彼女を逃すなんて事はないだろう。




だが違った、何か言葉を交わした後。ジンは彼女の事を「ギムレット」と呼んで去っていった。彼女が奴らの仲間などとは思いたくないが、彼女が酒の名前で呼ばれている事、そしてジンに2度退治し、どちらも生きて帰ってきている事。




「ギムレット、長いお別れか。」




カクテルにはそれぞれカクテル言葉というものがある、奴が彼女の事を意図してそういう意味で呼んでいるのか、はたまた俺自身のこじつけか。




火をつけるタバコは彼女が好きだといったものではなく彼女を感じられるもの。最近ではそれにしか火をつけていないような気がする、電話もメールも出ない彼女をどうやって探したらいい?携帯の位置検索でさえ使え無かった。彼女はもう携帯を持っていないのか、それともただ電源をつけていないだけなのか。




「さようなら、私の家族を殺した初めての恋人さん。」




先ほどから何度も頭の中をこだましてやまない去り際の彼女の言葉。あの時無理やりにでも彼女の手を掴んでいれば何かが変わっただろうか、彼女の言葉に少なからず動揺し、動けなくなった。「嫌われてしまった。」という思いが大きく膨れ上がって、まるで母親に置いて行かれた子供のようにその場を動け無かった。近くでジョディとキャメルの声がしているにもかかわらず、あの時もずっと彼女の言葉がこだましている。




「捨てられたのは、俺の方か?」



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