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盛大な祝宴ムードの中を歩いていると自分がどうもこの世界から取り残されているのではないかという狂騒感が感じられる。今まさにそのような雰囲気の中、東京都知事である朝倉雄一郎のお言葉を賜っている。今日多くの人の祝表のなか都営地下鉄15号線東都線の開通式が行われていた。
何が楽しくてここにいるのかはわからないが、居合わせてしまったものは仕方がない。彼に同乗させられてこんなところまで来てしまっている私はコナン君顔負けの巻き込まれ体質なんだろう。あぁ、語弊があった、彼は巻き込み体質だった。
「浮かないかをしていますね。」
「そりゃそうですよ。」
「引きこもってばかりのあなたをやっとの思いで外に出したというのに、そんな顔をされては悲しいです。」
「私も外に引っ張り出されて悲しいです。」
「これは、手厳しい。」
「そうは、思ってないくせに。」
「思っていますよ、少しですけど。」
「おえぇ。」
「こうしてあなたをあの赤井秀一から引き離せるなら、こういった会話も悪くはないですね。」
「はっ、笑わせないでくれますか、バーボン。」
「すみません、ギムレット。」
どうしてこんないけ好かない男と一緒にここにいるかと言われたら「仕事」の一言で済ますにはもったいないくらいの大きな理由がある。都知事に届いた脅迫状だ。私もそのことは知っていたがまさか、この男がその情報をいち早く手に入れているなんて思ってもいなかった。
脅迫状は朝倉都知事の自宅に届けられていて差出人の名前はない。脅迫状の内容はこうだ。「お前の傲岸不遜な4年間の都政に対し、天誅を下す。」傲岸不遜とはおごっていて謙虚のない様という意味を持つ、朝倉都知事の1期目の当選の評判は悪くはない、むしろいい方であると思うが。世の中にはそう思っていない人もいるということだろう、10人いれば10通りの考え型と感じ方がある。
彼と私がなぜこの場にいるかというと朝倉都知事の護衛を勝手にしているだけだ。もう一度言おう勝手にしている。許可なんてもらっていないらしいし、そもそも護衛するなんて言ってもいないらしい。私はこの言葉を聞いた時、公安とはこんなにも暇な人物の集まりなのではないかと何時ぞやの私の友人の様に小首をかしげたぐらいだ。
都知事が電車に乗ったのを見て私達は東都線の上を通る新山手トンネルに行くために車に乗り込んだ。電車につけたGPSは正常に作動しているらしい、問題なく新山手トンネルで交差することができるだろう。
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