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コナン君を雪崩から救おうと上に放り投げたところまでは覚えているのだがその後の本の数分の記憶だけがすっぽりと抜け落ちてしまっている。確か、雪崩に巻き込まれてそのままか、じゃぁこの上に乗っている重たいものは全部雪か。
遠くで声が聞こえる、コナン君たちが私を呼んでいる。安室さんも、沖矢さんも。全員が私を探すために名前を呼んで雪をかいているのだろう。
だがそれに答える力が今の私には残っていない。残ってたのなら今すぐこの雪をかき分けて地上に顔を出しているだろう。
ピピピピピピピピピ
携帯が鳴っている、居場所を探すために鳴らしているのだろう、だがこちらに人が来る気配はない。こんなことならもっと着信音を上げておけばよかった。なんだかんだ言いながらも初めての新潟でちょっと興奮していたせいで、仕事の電話がかかってきたら嫌だから着信音を小さくしとこうと、音量を下げたあの時の自分が悔やまれる。
しばらくして携帯が鳴り止んだ。もう本当にこのまま見つからずにここで死んでいくんだと思った。そう思うと色々と楽しかった。コナン君に会ってしまったばかりに事件に巻こまれはしたものの、いや、何回も巻き込まれたがそれも今となってはいい思い出である。
そんな楽しいような、大変な日々とも、もうおさらば。お母さん、お父さん、お兄ちゃん私はそちらに行きます。
どうせなら赤井さんに家族のお墓に来てほしかった。後悔して欲しいとかではなく。家族に赤井さんを紹介したい、私の彼氏はマジでイケメンですって。「あんたにひっついてくる男はいるのかね」といったお母さんに目にものを見せてやりたかった。残念。
だが、死んでしまうのではないかと思うこの場面でもなぜか心のどこかで助かるんじゃないかと思っている自分がいた。どうしてだかわからないけど、彼がきっと見つけてくれると確信めいたものが頭を離れない。
だって「お前を守るためならなんだってする。」って言ってましたもんね、赤井さん。きっと雪をかきすぎて指から血を出してたって、そんなの気にもとめず探してくれていると思うから。
そんな赤井さんにまた会いたいから。
『仮〜面ヤイバ〜、仮〜面ヤイバ〜、ヤイバ〜ヤイバ〜』
おい誰だ、こんなシリアスなシーンでこんな着信音流している奴は。
紛れもない私である。どうしてプライベートの番号なんか知って・・・あぁ、赤井さんに教えたんだった。こんなことならもっとしっかりとした着信音に変えておけばよかった。なんて心のどこかで笑っている私がいる。
徐々に視界が明るくなっているような気がする、もう目を開ける力も体を動かす力も残ってないけれど私を抱きしめるそれは紛れもなく赤井さんのもので、昨日の夜に感じたものと同じだった。
ほら、やっぱり。
やっぱり、私を助けてくれた。
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