赤井秀一編


組織と対峙てしばらくあった後。
これは彼女と和解する前の話。彼女には絶対に話せない話。





本部を出て車に乗り込む、向かうのは彼女の家。
とあるマンションの一室、彼女の部屋の前に立ち呼び鈴を押すもやはり出ない。マンションの廊下から見える部屋には相変わらず電気が点いておらず誰かが住んでいる事さえ怪しく見えてくるような雰囲気をしている。




「やはり、出ないか。」




こんな年になって一人の女性にここまで溺れるとは思ってもいなかったが、実際にはそうなってしまっているのだから仕方がないと割り振って再び彼女の家のドアを叩く。




「ここにいることはわかっているんだがな。」




夜になると漏れる部屋からの明かりは彼女が今もなおこの家に住んでいることを物語っていて、この間この家に安室透が訪ねていた時には本当に驚いた、安室透を部屋に入れるために開けられたドアに手をかけようとしたがすんでのところで彼に鍵をかけられてしまった。




なぜ、彼が?




どうして俺ではなく彼が彼女の部屋に出入りをしている?




「頼むから、出ていてくれ。」




顔が見たい、声が聞きたい。彼女が作った料理だって食べたい。




あの時一度会っただけでは足りない。





どうしても誄とコンタクトが取れないかと、彼女となんども足を運んでいるBar Grandへ向かった。




「いらっしゃい、あら。珍しいわね、一人で。」




「誄はまだここにきているか?」




「誄ちゃんね、ついこの間来たわよ。」




「この間?」




「毛利探偵の家で事件が起きたって日の次の日あたりかしら?」




「一人でか?」




「いいえ、金髪の色黒の男の人だったかしら、結構かっこいい感じの。」




「・・・。」




「彼がどうかした?」




「いや、どういう話をしていたかは教えてくれないか。」




「お店の中の話は夢物語と一緒よ、私たち従業員はそういう話を覚えていてはいけないの。」




「そうか、すまない。」




「喧嘩でもしたの?」




「彼女の家族を殺したのは俺だということを誄が知った。」




そう言うと彼女・・・は俺を席へと案内して、二つコーヒーを持って向かいの席に座った。




「それで?」




「誄は、俺に家族を殺した犯人と言って姿を消したままだ。居場所はわかっていて何度も訪ねているんだが、どうやら会う気はないらしい。」




「そう。」




「俺はそこまで彼女に嫌われてしまったようだ。」




「馬鹿ね。」




「?」




「イケメンのくせに本当に馬鹿。」




「おい。」




「誄ちゃんは、あなたが家族を殺した犯人だってずっと前から知ってたわよ。」




目が落ちそうになるとはこのことを言うのだろう。誄は、俺が家族を殺したとずっと前から知っていた?




「ずっととは?」




「あなたと小さい坊やをここに初めて呼ぶ前から。でも、誄ちゃんは最後まであなたが犯人じゃないって思っていたからずっと組織のことを調べて、あなたじゃない証拠を探していたのよ。」




「聞いてない。」




「そりゃ言えないでしょうよ、自分のこと好いてくれている人に。私の家族を殺した犯人なんですか?なんて。怖くて聞けないでしょう?」




「怖くて・・・。」




その言葉になぜだかストンと何かが落ちたような気がした。いつも冷静な口調で話をするのは動揺を人に見らてないようにしていたから、昔家族と暮らしていたという大きな家に本が沢山あるのは空いた空間を何かで埋めようとしていたから、一人でいるときに声をかけても本心から嫌がらないのは、誰かと話をしていることに安堵感を感じていたから。




彼女のすべての行動、言動が何かから自分を守るためなのだとしたら。今まで何を勘違いしていたのだろう。



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