覚えているだろうか。
海洋娯楽施設アクアクリスタル後の出来事を。




あれは犯人に刃物を突きつけられてなおかつヘリコプターで犯人と一緒に地獄の果てまでランデブーを決めこもうとした事件の後。私はある人物に呼び出されて一路Bar Grandへ向かった。今思えばあの頃はそこに一人で行くことが多く、まだコナンくんや赤井さんとも頻繁に出入りするような間柄ではなかった。




今思えばあの頃が懐かしい。
あの頃の私はまだウブだったろう。犯人に捕まれば表には出さないものの少しばかりの恐怖を感じていたが今となってはそんな可愛いメルヘンな感情はとうにゴミ箱に捨ててしまってる。




ここ最近の私は北に雪崩が起きたと聞けば皆を助けようとモービルをヴュンヴュン乗り回し、雪のお布団の中永遠の眠りにつくところまで行く。西に黒の組織が来たと聞けば大観覧車の上から勇気ある紐なしバンジーを決め込むぐらいの勇気と共に行動し。西に小さな名探偵がいると聞けば絶対にそこには行かないと籠城を決心したにもかかわらずエセ大学院生に連れ出され事件解決のお手伝いをし。南に金髪褐色の男がいると聞けばこれまた絶対に行かないと籠城を決心するものの、またもやエセ大学院生と小さな探偵に連れ出され健やかなる笑顔で私を出迎える金髪褐色の男に渾身のエルボーをお見舞いしている。そんな生活を続けている私は。




この世界に慣れすぎてはいないだろうか。
いや、順応性の高い女を演じていると考えれば世の男たちが黙っていないだろう。これで私もモテモテの人生を送れるに違いない。とニマニマしようものならかの有名なFBI捜査官赤井秀一の手によってその顔は一瞬にして恐怖のズンドコまで叩き落されるのは目に見えて分かる事実である。




話を戻してあの後私はアメリカでのちに有名人になる一人の少年との密会をしていた。




「わざわざ来てもらってすみません。」




「いやいや、どちらかというと君の方が遠くから来てるから私はなんとも言えないけど。」




「メールにも書きましたがサワダ*ヒロキと言います。」




「初めましてサワダさん、蜂谷誄です。」




「サワダさんなんてやめてください、僕の方が年下なんですから。」




「じゃぁ、ヒロキ君でどうかな?」




「はい、それでお願いします。誄さん。」




「では、本題に入りましょうか。ヒロキ君が欲しがっていたものだけど、全部この中に張っているから。」




「ありがとうございます。」




ヒロキ君はデータの入ったものを握り締めると大事そうに眺めている。それが何を意味しているのかなんて私にはわからないし、このデータをなぜこの少年が欲しがっているのかもわからない。だが、お客様にはお客様の事情があり、ここは夢見ごとの話をするところ、深くは追求できない。




「そのデータを何に使うのかは知らないし、聞かないけど。」




「やっぱり気になりますか?」




「そうだね、気にならないと言ったら嘘になると思う。」

「誄さんなら、これにどんな名前をつけますか?」




「名前?」




「新しく生まれてくるんですから。名前を考えないと。でも僕、ネーミングセンスはなくて。」




「私が考えていいの?」




「もちろん。」




「じゃぁ、ノアズ*アークなんてどうかな?」




ノアズ*アークとは「ノアの箱船」ことで、旧約聖書6章〜9章に登場する大洪水のノアの箱船物語のことで、その物語の主人公ノアとその家族、その他様々な動物の乗った船のことを意味する。




神であるエボバは、人間が次第に堕落していくのに怒りを覚え、大洪水を起こし人間たちを一度全滅させようと考える、だが人間の中にも真面目に働いていく人間もいる、それがノアの一家である。真面目に働いている人間が堕落した人間のせいでその生涯を絶たれるのは如何なものかと考えたエボバは大洪水のことをこっそりとノアの一族に話しました。




その際神エボバはノアの一族に箱船を作らせた、それが「ノアの箱舟」そしてノアの一族と2対の動物たちがそこに乗り込み、神エボバの起こした大洪水から逃れることができた。という話しがある。




「いいですね。」




「気に入ってもらえてよかった。」




しかし、考えてみてほしい。これは私の考えていることだから史実に基づいているわけでもなく、かといって何かの文献から引張てきたわけでもない。箱舟という言葉を聞いて何を思い浮かべるだろうか。私は箱、つまりBOXである。ふたが閉まり外からは中が、中からは外が見えないようになっている様子だと私は考える。




そうなるとノアは、本当に大洪水の中を箱舟で渡っていたのだろうか。多少荒波の海を箱舟で漂っている間に神エボバが堕落した人間たちを大量に亡き者にしていただけなのではないか。などは考えられるが、私はそういった関係の学者でもなければ研究者でもないため、ここまでにしておこう。




「では、僕は行きますね。」




「その前にご飯でも食べていかない?」




「え?」




「帰りの飛行機まで時間あるんでしょ?ここのご飯はおいしいから。」




「・・・じゃぁ、頂いて行きます。」




「よかった、お金は気にしないで。ジョグのおごりだから。」




「ちょっと!聞こえてるわよ!!」

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