13



日も暮れてデッキで普段はあまり飲まない炭酸を飲んでいると近くに人の気配を判じて振り返る。



「なんでしょう?」



「おっと、もっと驚いた顔をしてくれると思ったんだけどな。」



「寒川さんでしたっけ?フリーの映像作家の。」



「よく知ってんな。」



「コナンくんに聞きました。」



「そうか。全員を撮影して回っているんだけどな、ここまで驚かなかったのはあんたが初めてだ。」



「可愛げがなくてすみません。」



「まいったな、そうは言ってねーだろ。」



夕日に照らされ寒川さんの持っている撮影機が反射して目が痛い。少し目を細めていると寒川さんの首元に光る指輪が見えた。



「ご結婚されているんですか?」



「あ?」



「指輪が見えたので。」



「あぁ、これか。これはただの指輪じゃぁないぜ。」



「寒川さんそれ、私にも見せて頂いていいでしょうか?」



「あぁ、あんたか。ロマノフ王朝研究家の浦思青蘭さん。」



青蘭さんは寒川さんからそれを受け取ると、今までにない顔立ちでそれを見ている。
目元が一瞬動いたかと思うとそれを持ち主に返しながら言った。



「これは、ニコライ二世の長女マリアの指輪?」



「あんたがそう言うならそうなんだろ。」



「それをどこで?」



「あんたにあげようと思ってな。」



急に右手を取られ薬指に触れる寒川さんは、何を企んでいるんだかじっとこちらを見据えていた。どう対応していいものやら考えていると私の後ろから聞き覚えのある声がした。



「できればそう言ったことは遠慮して頂きたいのですが。」



「あんたは?」



「沖矢昴と言います。彼女の手を離しては頂けませんか?」



「はっ、彼氏気取りか?」



「気取っているわけではありませんが。」



「・・・あぁ、そう言うことね。それは失礼。」



寒川さんの握っていた私の右手はいつの間にか沖矢さんが握っていて何故だか知らないけど少しだけ顔が熱くなるのを感じた。寒川さんに握られていた時とは違い、力強く握られているそれを振りほどけずいると後ろから花の女子高生コンビがニヤニヤしながら近づいてくるのがわかり、嫌でも冷や汗がつたった。青蘭さんに助けを請おうと思って青蘭さんを探すも彼女の姿はなかった。裏切り者ぉ。



「蜂谷さんと、沖矢さんてお付き合いなさってるんですか?」



「いえ、そう言う仲ではないんですが。」



「え?じゃぁ、どういう仲なんですか?」



女子高生というのはなんでこうも色恋の話が好きなのだろうか。話そうとする私を置いて三人で何やら楽しそうな会話を繰り広げている。ここで思ったことがあるのだが、女子高生と色恋の話で盛り上がっている沖矢昴という男はあの有名なFBI捜査官赤井秀一≠ネのである。



楽しそうに話をしているけど、どっちが本当の表情なんだろうか?



「私が一方的に想いを寄せているだけなんです。」



「あ?」



「きゃー!それを蜂谷さんの前で言えちゃう沖矢さんってマジイケメン!!」



「何言ってんですか?」



「本心を言ったまでですが。」



「蜂谷さん、どうなんですか?こんなイケメンが遠回しに告白してきてるんですよ。」



鈴木さんは私の腕を自分の肘でつついてくる、俗に言う「このこのぉ。」である。別に沖矢さんに告白まがいなことをされたからと言って嬉しいかと聞かれれば答えは否であることにまず間違いはない。



「では、お返事を頂いてもよろしいでしょうか?」



「え、返事?」



「蜂谷さん、さっとお返事しちゃってくださいよ!」



「あーっと。えーっと。」



「もう、何悩んでいるんですか!イエスか、ハイのどっちかってことですよ!」



それはどちらも肯定の意味になってしまうのではないか。私はイエスかノーかで悩んでいるのではなく、いかにしてこの場をノーで上手く切り抜けるかを考えている。ただノーと言ったところで沖矢さんは黙っていないだろう。もしかしたら沖矢さんは黙っているかもしれないけれども赤井さんが黙ってないかもしれない。それと横の二人。花も恥じらう女子高校生である。恋愛ごとが大好きな女子高校生二人にとって目の前で知人が告白をしているのだこんなに興味をそそられる出来事はないだろう。上手くはぐらかさないと一生かけていじられるような気がしてならない。



はぐらかせたかと言われればそうではないのだが。「また今度返事は聞きましょう。」と言われ
その場を解放された。


- 25 -

*前次#


ページ:



ALICE+