主人公編
主人公編
無事事件が解決しひと段落と思いきや、まさか赤井さんにあの時の返事を要求されるなんて思ってもみなかった。一応保留とうことでことなきを経て次の日には自宅にたどり着くことができたが、赤井さん怒っているだろうか。
確かに守ってもらって、赤井さんを頼りにしている部分はある。あの大きな手だって好きだし、包容力?も嫌いではない。口数が少ないのだって。
でも、なんとなく彼を自分の父と兄と重ねているような気がする。私は赤井さんだから好きなのか。それとも赤井さんが二人に似ているから好きなのか。もしそうだとしたらその感情はLOVEではなくLIKEになる。
ただ単純に恋愛感情というものを考えてなく、赤井秀一という人物が好きなのか。それとも恋愛感情よろしく、赤井秀一に自分だけを見て欲しいという、知って欲しいという感情を含めた好きであるのか。自分自身もよくわからなくなっていた。
もう一つ私には懸念材料がある。
それは、私がこの物語の登場人物ではないということ。つまり、いずれは元いた世界に帰らなければならないのではないかという事。もし赤井さんとそういう関係になったとして、元の世界に帰らなくてはならなくなったら私は素直に帰る事ができるだろうか。赤井さんをおいて帰る事を選ぶだろうか。
どちらの世界にも未練がある私はまるで地縛霊のように彷徨っているような感じだ。両方の世界を行き来して生活する事なんて不可能だ。だがどちらかの世界を選ばなければいけない時がもし来るのなら。
そう思うとなかなかどうして、本を読む手が止まってしまう。
もともとは考えをまとめるために始めた読書も、今となっては自分自身の感情をコントロールする手段の一つとなっている。
それのおかげで赤井さんと接点ができたのだから、そういった意味では感謝はしているのだが。
「返事、返さないと。」
暗く月明かりに照らされたその部屋に、私が発した声は静かに消えていった。
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