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部屋に入りきらなかった本がリビングのテーブルの上に乗っているのを忘れて料理をしていると赤井さんはそれを手に取りペラペラとページをめくり始めた。
ソファに座り足を組んで本を読んでいるその姿は沖矢昴が醸し出すそれに似ていてなんだか不思議な気分になる。赤井さん=沖矢昴ではあるが外見も声もなにもかもが違いすぎる。赤井さんは沖矢さんみたいに笑わないし。沖矢さんは赤井さんみたいに怖くない。
「新しい本を買ったのか?」
「はい、部屋に入りきらなくてそこに置いてあります。」
「よくまぁ、一度にこんなに買ったな。」
「足はありましたから。」
「ホォー、足とは?」
「安室さんに車を出してもらいました。」
ページをめくる手が止まり、テーブルに読みかけの本を置いた赤井さんがなにやら黒いオーラをまといながらこちらに向かって歩いてくる。まだハンバーグは焼けていませんよ。
「なんですか?」
「この間俺がお前に言ったことを忘れているのか?」
「忘れてないですよ、返事を保留にしていて申し訳ないとは思いますが。」
「だったら、他の男の名をホイホイ出すな。」
「だって、安室さん酷いんですよ。私が読んでる途中だったベリスリー唯一の推理小説の犯人を言っちゃうんですよ。どんだけ私が楽しみながら読んでいたことか。」
「それで、車を出させたのか。」
「そうです。」
「大した奴だな。」
「そうですか?当然の報いですよ。」
国旗の刺さっていないハンバーグを作り終えテーブルに運び赤井さんと食事をする。最初はなにか異様な光景と思ったこれも慣れてしまえばどうってことはない。ただ、赤井さんの職業柄面白い絵ズラであることは確かだろう。大学生と食事をするFBI捜査官、年齢的に見ても側から見たらおかしな光景に見えるだろう。
私だって未だに信じられない。
あの赤井さんが私に好意を持ってくれている、そして私はそれを保留にしている。元の世界に戻った時私の友達がこのことを知ったらきっと闇討ちじゃ済まされない。しつこく根に持って「なんですぐ返事しないの?」「赤井さんを待たせるなんて信じられない。」と胸ぐらをつかむ勢いで迫ってくるだろう。一番大切なのは黙っておくことだ。
「考え事か?」
「少し、でも大丈夫です。」
「お前の大丈夫はあてにならん。」
「ははは。」
「何かあれば俺に言え。」
「あ、そうだ。これ頼まれていたものです。」
「あぁ、助かる。」
メールで頼まれたものを赤井さんに渡すとそれをポケットにしまい。「これ以上聞くな。」と言いたげな雰囲気を醸し出してくる。なら、聞かないほうがいいだろう。赤井さんは仕事柄情報漏洩には敏感だし。
「赤井さん警察の方が誰かに襲われたって事件知っていますか?」
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