原作知識はないと言ってもそりゃ少しは覚えているわけで、現世の記憶を尋常ではないスピードで頭の中で紐解いていくと確かに漫画の中に出てきたような出てこないような、見たことがあるような顔をしている。なんだか、顔色が悪くて目つきが怖くて。



「ば、バスジャックと、アメリカと。」



「ほー、そんなところまで知っているのか。」



惜しくも過去に捨て去ってしまった世界はなんとも私に酷い仕打ちをしているらしい。私はこの赤井秀一≠ニいう男を知っている。



もちろん漫画の中での話だが、毛利蘭ちゃんがアメリカで小汚いおっさんをビルの階段から助けた時にいたような気がする、そしてSTOPと書かれた細長い板が実は爆弾でしたという事件に出てきた咳をゲホゲホしていた男性は今まさに、私の眼の前に座っている彼で間違いない。



「あー!」



出てたよ映画に。スナイパー系の映画に出ていて物語終盤、彼が「了解。」なんていうのを一緒に見に行った友達がワーキャー言いながら興奮していたよ、確か。映画の後の喫茶店は出禁をくらうのではないかという盛り上がりで本当にお店の人に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



「知ってるというか、なんというか。思い出しました。」



「では、その思い出したのも含めて話してもらおうか。」



「まず何から話せばいいですかね?」



「どうやって俺のことを調べたか、だな。」



「パソコンですよ、調べたのに使ったのはパソコンです。ちょっと他のパソコンにお邪魔して情報をいただくのが得意なんですよ。」



江戸川コナンくんがこちらを見て眼を細めながら「それってハッキング。」と小さくつぶやいている。そういう言葉に出さなければハッキングとは言いません、お邪魔しているだけです。



「そういうのが得意なんです。」



「得意というだけで俺を調べようという理由にはならないだろう。」



「そうでしょうか?」



「お前は一体何者なんだ?」



「健全な大学生です。」



「健全な大学生なら昴さんを見ただけで素性を知りたいなんて思わないんじゃない?」



「・・・クソガキ。」



いやしかし、なんとも。この江戸川コナンくんは敵に回すと恐ろしいというか痛いところを突いてくるというか。鋭い観察眼を持っていることは認めよう。だがしかし私だって一端の文学大好き女子、言葉で負ける気はしませんね。



「お礼を言おうと思ったんです、なので大学で彼の学部を聞きました。ですが在籍していないと言われたので、気になって調べてみました。そのことについては謝ります。」



「別に調べたことに関して咎めるつもりは毛頭ない、こちらも同じようなことを君にしているわけだからな。」



「意味がわかりかねます。」



「蜂谷誄、君は本当にこの世界の人間か?まるでいきなりそこに生まれた様にデータが保存されていた。」



「それを沖矢昴さんにそのままお返ししたいのですが。」



私はこの世界に生まれている、戸籍があることだって確かめたし。普通の家庭と違うところなんて両親と兄が事故で他界しているということ。それぐらいだ。調べられておかしいことなんて一つもない。



「ククク、すまない。カマを掛けさせて貰ったがなかなかそれに乗ってくれるような簡単な女ではないようだ。」



「女性にカマをかけるなんて失礼です。」



「すまない、だが。その能力をどこで身につけたかは聞いてもいいか?」



「私の過去を話さなければならなくなります。それは少し嫌ですが私は貴方達二人の過去を知っている、私だけ知っていて貴方達が知らないのはフェアじゃないと思います。」



「そうだな。」



そして私は一呼吸おいて自分の生まれについて話しを始めた。



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