03
っはぁ、っはぁ、っはぁ!!!
息がつらい、肺がつぶれる、のどがいたい
足が、手が、自分の身体じゃないように重い
とめどなく溢れてくる涙で前が見えない
嗚咽がもれて上手く息ができない
はしれ、はしれ、はしれ!!うごけ!!
「っぁっっ!!」
ずべしゃっ
小石につまずいて走って勢いそのままに倒れ込んでしまった。
「いっっ!〜〜〜っ」
うごけ!うごけ!うごいて!お願い!!
にごろ!!!にげなきゃ!!
「ぐぅっっっ」
ずり、ずりと地に這いながら、なんとか前に進もうとする。
はやく!!はやくにげなきゃ!!
焦る思いとは裏腹に、酸素を消耗した身体は重く上手く動かせない。
どうしよう、どうしようっ!あれがきてしまう!!
あぁ、あぁっっお父さんお母さん!朔!結!っっ!!
「なんでぇっっ」
「もう鬼ごっこは終わりかァ??」
「ぁっ!!!ひっ!!!」
「随分遠くまで来たなァ。家族と離れて寂しくないかァ??…まあ、心配ない、すぐに一緒になれる」
ニタァと嗤いわざとらしく手を大きく動かすそれの両手と口にはおびただしいほどの血が付着している。
一歩、一歩と恐怖を煽るようにゆっくり近づいてくる。恐怖で身体が震え、地に這いつくばることしかできない。
もうあと一歩というところまで足跡が近づき、ぎゅっと目を瞑る。
脳裏にはあの光景が目に焼き付いている。月明かりだけが照らす部屋が真っ赤になるのを。
お母さんの悲鳴が聞こえ何事かと飛び起きると、目の前に口から血を吹き出しているお父さんがいた。何が起きたの。
お母さんがお父さんに近寄ろうとした半身身体を前に倒した瞬間、ぱっとお母さんの首がなくなった。
横に寝ていた結と朔が私に手を伸ばし、その腕は私に届くことなく床に落ち落ち2人の体は壁に叩きつけられた。
なに、なに、今この瞬間になにがおきてるの。
目の前の惨劇に、ただただ混乱した。
視界の端になにかが動くのが分かりそちらに目線を寄せるとお父さんが私に手を伸ばしている。
私も掴もうと手を伸ばす。
「お、おとう、さ」
公子、にげ
そう口が動いた瞬間お父さんの顔は床に潰れた。
「ひぃぃっっ」
「あァ??!」
ぎょろりと目を光らせ血をしたたらせる人間のようななにか。
「こ、こないで!!!」
枕元に置いてあった野花を投げつけるが、花々はくたりと床に落ちてしまう。
「こないで!こないで!やだ!!」
それでも私はがむしゃらに投げ続けた。
「チッ!!藤の花か!」
ええい鬱陶しい!!小賢しい真似を!
人間の見た目にツナをはやし牙を剥き出しにしたそれは苛立ったように私を睨みつけた。
くそっくそっ!藤の花さえなければ!くそ!と地団駄を踏み、それ以上は私に近づけないようだ。
それを尻目に私は裏口へ走りだした。
一生懸命、一生懸命に林の中をかいくぐって頬や足に木の枝が当たろうと、蜘蛛の巣が引っかかろうと、必死に走ったけれど……それももう限界だ。
「手間取らせやがってェ!!だが女の肉は柔らかいからなァ。最後には丁度いい。…さぁ、時間をかけた分お前はゆっくり食べてやろうなア」
あぁ、でもこれでみんなと同じところへ行けるんだ。
そう思って全身の力を抜いた。
短い人生だったな。もっとやりたいことあったのにな。スカート履いてみたかった。ブーツを履いてハイカラさんになってみたかった。お嫁、行ってみたかった。なによりみんなともっともっとたくさん一緒にいたかった。いられると思ってた。
「もっと生きたかったな、」
「生きることを!簡単に、諦めるな!!!」
怒声が林を揺らし、烏が飛び立つ音と共にギャァっと断末魔が響く。
「どうせ死ぬなら生き足掻いて死ね!!!」
おい聞いてんのか小娘ゴルァッ!!
え?小娘?って、…私??
さっきの怒声は私に向けてだったの??
声の方へ顔をあげると、あの恐ろしい存在は跡形もなく。そこにはただ1人、水色の刀を持った白式尉がいた。
※白式尉(はくしきじょう):翁の能面
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