「アオリの手って、可愛いよね」
まったくなんの脈絡もない行動だった。ふと指を持ち上げられ、そのまま指先に唇が当たる。突然のことに時が止まった脳が、異様な事態を認識して辛うじてぴくりと私の指が揺れた。そうるすと、ギーマは愉しげに笑って今度は私の指に歯を立てた。ぴくりと揺れるだけではおさまらず反射的に手を引っこめようとしたけれど、そうなることを見越したギーマが私の腕を強く掴んでいる。.......おかしい、今はポケモンバトルの話をしていたはずなのに。
「あの」
「.....うん........?」
「....何をして、いらっしゃるのかな、と」
「可愛い可愛い恋人様を愛でているのだが?」
今度は包み込むように手のひらを合わせて、ゆっくりと指を絡める。相変わらず視線はこちらを見ていて何も悪いことはしていないのに私が狼狽えてしまう。吸い付くように肌が合わさり、手のひらから体温を感じるといよいよ羞恥心が強まって、どうすればいいか分からなくなってきた。そんな私を知ってか知らずかギーマは絡めた指先をなぞるようにして私の固まった指を解そうとしたり、かと思えば手の甲を擦るように指を這わせた。
「ぎ、ぎーま、さん」
「なんだい」
「....これは、いつまで続くのでしょう....」
「アオリが根を上げるまでかな」
「...う、容赦ない....」
ただ手を弄られているだけなのに胸が早鐘を打つ。指を見ていられず、ギーマのことも見ていられず、宙に彷徨った視線はやがて自ずと斜め下にさがった。無意味に床を眺めて、それでも落ち着かず視線が床を行ったり来たりしている。ああ、ポケモンがいてくれればギーマを剥がすように指示を出すのに、こんな時に限ってほとんどの手持ちはポケセンで預けてしまっていた。唯一手元に残していたクロバットは近くの木の枝に止まり頭を地面に向けてゆらゆら揺れている。あれは爆睡中だ。
そんなことを考えていればギーマが喉の奥を鳴らして笑っているのが目に入った。
「ポケモンバトルでは私をあんなに翻弄するってのに、色恋沙汰だと途端にこれだ。こうも容易く、」
「...翻弄される、って言いたいんですか.....誰のせいだと....!っていうか手をそろそろ」
「やだね」
「言う前から即答....」
「もっと私に翻弄されればいいさ。ポケモンバトルでも、私を、思わず思い出して慌ててしまうくらいに」
「っわ」
いきなり腰に手を回され、瞬きした瞬間には距離が縮まっていた。思わず情けない声が漏れたが、そんなのおかまいなしにギーマは人差し指で私の顎を軽く上げた。無理矢理に視線が合いギーマの瞳に自分が映っているのが見えて、思わず目をつむる。全身の血液が顔と、それから握られた指に集中していくような感覚だった。溺れてくれないと困るってなんだ、こっちが困る。
ふに、と何かが唇にあたった。自分の唇より少し硬いようなそれを確かめようと目を開ければ、笑いをこらえているギーマと、彼の人差し指が自分の唇に触れているのが目に入る。
「期待しただろう?」
「してません!」
「目を瞑ったじゃないか」
「あ、れは!そういうことじゃなくて!」
「赤面してるのに?」
「ギーマさんのせいです!!!!」
「そんなに必死になるくらい...私が好きってころだろう?」
思わず叫びそうになった。言葉にならない何かを吐きだそうとして開いた唇は、今度こそギーマによって塞がれた。電気が走ったような感覚が全身からこみ上げてきて体中がびりびりする。塞がれているのは唇だけのはずなのに、周りの音が遮断され自分の鼓動がやけに響いて聞こえた。
ギーマの片手は私の指を握ったまま、もう片方の手がいつの間にか服の中に滑り込み背中をなぞる。それに思わず唇を塞がれたままくぐもった声を出してしまえばギーマの肩が少し震えた。多分、笑っているんだ。知ってる、悪タイプ使いってそういう人だ。性格悪いんだ。そして勝負師とかいうかな尚更人が根を上げる姿を楽しんでみているだ。
なんて思考を巡らせていれば、背筋の真ん中をつつ、と撫でていた人差し指が下着の金具で止まった。親指と人差し指が留め具を掴む。
「外すよ」
はい、と答えられるはずもなく言葉に詰まった。ホッグが外れた途端、下に落ちていくそれを思わず自由な片手で必死に押さえつけた。だって、ブラジャーが床に落ちてしまったら、服を着ていたとしても視覚的に「外された」と意識してしまう。そんなの、無理。絶対に無理、無理だ。叫びたい感情ととてつもない羞恥心と隠れたい衝動がぐるぐると混ざる。ギーマは今どんな顔をしているのだろう、いや考えるまでもない、絶対に愉しそうなな顔をしているに決まっている。そう思うと今度は悔しくて、耐えるように唇を噛み締めた。
「いじらしいね」
「.....うるさいよ」
「あーーーー、なにその表情かわいい」
「か、わっ?!」
再び唇が奪われる。引っ込めていた舌を絡めとられ、そのまま壁に押さえつけられた。その衝動でブラジャーがはらりと床に落ちたのが視界の片隅に見え、いよいよ自分の置かれている状況に眩暈がしそうになってくる。どうにかして落ちたそれを拾おうと腕を伸ばすが、届くより先に素早く腕を捕まれて、そのまま頭の上で両腕まとめて拘束される。もう片方の手で私の頬をゆっくりと撫でると、やがて身体に指を滑らせ、その指が胸の先端触れた。
「だ、ざぁっ」
「.........」
あ、獲物を捕らえた目だ。相手を手中に収めた時の顔だ。気持ちを隠さない時の声だ。こうなったらもうこちらは成す術がない。勝ちを核心したギーマを止められる人などいないということは私が一番よく分かっている。
「先輩、」