「南の女神、東の英雄───まさかあの二人を一度に目にする日が来るとは思いませんでした・・・!」

中央司令部のロビーをまるで庭みたいに闊歩する二人の姿をまじまじ見つめるシェスカは、緊張した面持ちで眼鏡をくいっと上げた。まあ、その反応も無理もない。二人の堂々たるや、どう見ても地方から来た奴には見えないし、映画のワンシーンのようだ。
いくつになってもこの二人の間に挟まるのだけは気が引けるが、とはいえ声をかけないわけにも行かない。

「オーイ、お二人さん!こっちこっち」

とヒラヒラ手を振ると、ほぼ同時に整った顔がふたつこちらを向く。途端にシェスカは背筋をピシャッと伸ばした。

「全くお前ら・・・ちったぁ緊張しろってんだよ。まぁ、相変わらずそうで何よりだけどよ」
「ワーオ・・・・すんごい。開幕一番お小言、ヒューズも変わってないね。あ、褒めてるよ」
「しばらくぶりだな、ヒューズ」

こうして三人顔を合わせるのは数年ぶりだ。ロイとは何度か連絡を取り合っていたものの、ナマエなんて電話も出ねぇわハガキも寄越さないわで消息不明もいいところだった。唯一の生存確認は、年に一、二度目にする程度の南方司令部の部内報でだけ。
前は肩まであった髪をバッサリ切ったことも知らなかった。顔つきも心なしか凛々しくなったように見え、美人に磨きがかかっていた。

「初めましてかな」

ビー玉みたいにキラキラした、好奇に充ちた瞳が不意打ちでシェスカの目の前に迫って来ると、彼女はポッと耳を赤くして大きくひと息吸い込んだ。

「お、お初にお目にかかります!」
「俺の部下のシェスカな」
「シェスカ、よろしく」
「彼女にはナマエの施設案内頼んでっから、女性だけでごゆっくり。お前はこっち!」

何食わぬ顔してナマエの後ろを着いていこうとする男の肩をむんずと掴むと、えらく不愉快そうな顔で振り向かれた。コイツには聞きたいことが色々ある訳だが、何から聞いていいのやら。

「で?ナマエとはもう話したのか」
「まあ、世間話くらいだ」
「ったく・・・・今回のトンデモ人事、どうせお前のゴリ押しだろ?運命の再会でもっと言うことなかったのかって。」
「彼女は南方で十分過ぎる功績を挙げてる、当然の人事だ」
「また、ごもっともなこと言って」

ナマエの南方異動が決まった時、あんだけ酒に溺れた奴が涼しい顔してよく言う。めちゃくちゃ公私混同な理由があることくらい、透けて見える。

「とにかくよォ、今回の件で上に目付けられてんだから大人しくしとけよ」
「暴れるつもりなんて初めからないさ」
「どうだか」

すると、ちょうど執務室前で足を止めたロイがドアノブに手をかけながら、「あぁ」と何か思い出したようにこちらを振り返る。──学生時代を思い出すような屈託のない笑みが向けられ、自然と頬が緩んだ。

「そういえばナマエに『会いたかった』って伝えたよ。『私はそうでもない』だとさ」


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