「じゃ、みんな楽しんで」

終業時間を五分程過ぎた頃、ナマエがそう言ってあっさり席を立ったのを見て、ハボックとブレダは「えぇっ!?」と声を揃えた。他の面々も目を丸くしている。私と大佐だけは、何食わぬ顔して書類を片付けていた。

「大尉、予定ありっすか?」
「ううん、無いよ」
「え・・っと・・・・・、俺達これから飲みに行こうと思ってたんですけど、大尉もいっしょにどうです?」

恐る恐るな感じのブレダに彼女も申し訳なさそうに笑いかけ、「ごめん」とだけ言った。それ以上話すつもりは無いのか有無を言わせぬ雰囲気のまま執務室を後にする。
なんとなく気まずい空気が流れると、フュリーが落胆気味のブレダを気遣うように言う。

「きっとお酒が飲めないか、禁酒してるとか、何か理由があるんですよ」
「まぁ、そうだといいけど。そうならそうと言ってくれても・・・」
「だよなぁ」

事情は知っているものの、どう切り出すべきか迷い少しの間口を閉ざしていたところ、帰り支度を終えたらしい大佐が立ち上がる。

「そう詮索するな。誰にでも他人に言えない事の一つや二つある。」

──まだ私もナマエも士官学生だった頃、上官とのお酒の席で強姦未遂にあった彼女を助けたのは彼だった。車で迎えに来るよう連絡があった時は返事もろくにせず急行した覚えがある。
店の前に着いた時、大佐の胸に顔を埋め、もたれ掛かるようにして立つナマエの姿を見て、声も出なかった。

あれから彼女はどんなお酒の席にも近寄らない。

「まっ、私の誘い以外受けないようにお願いしてあるだけだがな」

微妙な雰囲気に投じられた冗談は、彼らには気休めにもならなかったらしい。今度は明らかに不服そうに「えぇっ!?」と声が上がった。

「やっぱ二人はそういう関係なんですね!」
「通りでおかしいと思ってたんすよぉ、大尉が大佐のこと『ロイ』って呼ぶの!」
「そうそう!!」
「確かに仲がいいとは思っていましたが・・・」

この反応はこの反応で満足出来たのか、ああだこうだ言い出した部下の様子を尻目ににやけ顔をする大佐に、私はハァ・・・と大きな溜息をついた。


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