「あっ、す・・・っき、・・・・・・」

吐息に掻き消されそうになった声にぴたりと動きを止めた。もう限界も近かったが、それよりずっと、その言葉を確かめたくて。
乱れた髪を掻き分けるように頭を撫でると、彼女はとろけた目を薄く開きわずかに首を傾げた。無意識だったのか、それともこんな時まですっとぼける気なのか。覆い被さるように顔を寄せると、ギッ、とベッドが軋む。

「・・・ぁっ、ん・・・・・・、ロイ?」
「・・・・・・どこが好き?」

ゆっくりとした動きで浅い挿入を繰り返す内に、はぁ、と彼女の唇から甘い吐息が漏れる。探るように角度を変えていると、先程と同じように大きな声を漏らすナマエ。彼女の身体にもたれ掛かるように耳元に顔を埋めると、「それ、だ、め・・・!」と言いながら腰をくねらせる姿は最早興奮材料にしかならない。

「本当に耳弱いな」
「・・・・・・っ、ばか!」

舌足らずな罵倒に理性を奪われつつ、少し呼吸を整えて首筋に唇を這わす。ぎゅっと握り締められた手を強く握り返しながら、ゆっくり上っていき、耳朶に口を寄せて囁いた。

「・・・・・・ダメじゃないだろ?」

なんて言うんだっけ?と、煽ったはいいがもう殆ど我慢の限界で、徐々にその動きを早めていく。挿入に合わせて漏れる声を必死に腕で押さえるナマエの潤んだ目と目が合う。

──独り占めにしたいとか束縛したいとか、誰にも見せたくないとか。黒い感情が腹の中でグルグルと渦巻いて。

「言って、ナマエ」
「・・・〜〜〜!・・・すき、っ大好き」





「おはよう、ナマエ」

誰もいない執務室を見渡し扉を後ろ手で閉めようとした瞬間、真後ろで彼の声がして思わず目を見開いた。一番乗りは大概私か中尉、たまにファルマンだが、まさか朝っぱらからこの声を聞くとは思わなかった。
・・・した次の日はいつも寝過ごす癖に。

「随分早い出勤ですね、大佐殿」
「君の敬語は思ってた以上に気味悪いな」
「じゃあ、今度から嫌がらせに使おうっと」
「可愛くないな。昨日はあんなに可愛かったのに」

まあ、そんな事だろうとは思っていたのだ。私が腰掛けた椅子をくるりと回転させ、肘掛けに両手を掛けるロイの顔はもう、そりゃもう上機嫌そのもので。
正直、言葉ひとつでここまで構われるとは予想外の事で。当分サービス禁止だなと眉間に皺を寄せると、その眉間に優しいキスが落ちてきて。

「しばらくお預けだなとか考えただろ、今」
「まあね」
「一向に構わんよ、ナマエの魅力がそう安売りされてても困るからな」

いつの間にか手は彼の両手でしっかり肘掛けの上につなぎ止められていて、抵抗出来ないまま彼の唇が首筋に寄せられる。鈍い痛みの後に、撫でるように舌が這う。こんなん鏡を見るまでもなく丸見えだろう。

「──君が可愛いのは私の前だけでいい」

そう言って悠々と自席に座り新聞を広げる彼の背中に向かい、"言わなくても、分かってるってば"
──という言葉はとりあえず飲み込んで。
次に執務室へ入って来たファルマンに、「痒み止め持ってる?」とキスマークを掻き毟りながら訊ねる私は、きっと主演女優賞ばりの好演技だったに違いない。


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