「大丈夫?フュリー」

それはあまりに一瞬の出来事で、僕が目を瞑っている間に戦況は覆っていた。
通信妨害に気づいた敵に逃げ場を奪われていたはずなのに、僕の目には青々した空が映っている。手を差し出す彼女の顔には傷一つ付いていない。

「───だ、大丈夫です」
「行くよ」
「わあっ!!?」

女性に抱きかかえられたのは母親以外では大尉だけかもしれない・・・あまりの情けなさに落胆しそうになるも、そんな暇はなく。大尉の足元が青白く光るのと共に身体が浮かび上がり、それからはあまりのスピードに視界に入るもの全てにピントが追いつかなかった。よく見ると、目に見えない速さで錬成反応の光が放たれ、足跡の様に地面が盛り上がっている。

これが僕が初めて見た大尉の錬金術だった。

「その機械、まだ動く?」
「はい!盗聴されてる可能性もありますが」
「いいよ、貸して」
「どわっ・・・・!」

突如、急ブレーキをかけたように止まるので反動で身体が投げ出されてしまった。勿論、一刻を争う事態だ。痛いなんて嘆いてる暇もなくリュックから簡易の通信機を大尉に差し出す。「大佐に発信します」受話器を取るなり僕が言うと、ぽん、と頭に乗せられた手に胸が熱くなる。

「──ナマエです。通信拠点が狙われた。フュリーは無事よ。B班と合流してそっちに向かう」

これが、南方を支えた人の背中だ。
いつもデスクで見るあの柔和な雰囲気とはかけ離れた、ただならぬ決意で満たされた姿に、圧倒的な格の違いを見せつけられたようだった。

「ボーッとしない、行くよ!」
「はっ、はい!」

投げられた小銃をなんとか受け取り大尉の背中を追う。と、しつこくも追い掛けてきたらしい敵のものとみられる車が眼前に迫る中、たじろぐ僕と打って変わって少しも歩くスピードを変えない大尉が、おもむろにサーベルを引き抜いた。

「・・・・手加減してやったのに、自分から死にに来るもんじゃないよ。」

奇妙なほど可憐なその姿を、僕は恐らくこれからの人生忘れることはないだろうと思った。


|