悪戯心1
「ひまだね」
「あぁ」
「…雨ばっかりだねぇ」
「あぁ」
「……今日の晩ご飯なにかな」
「あぁ」
……聞いてないし
久しぶりの休日だというのに、空はどんよりとした雨雲に覆われていて大きくため息を吐く。
「せめてもうちょっと小雨になったら買い物にでも行けるんだけどなー」
「あぁ」
私の言葉に生返事しか返さない薬研は、何やら難し気な本から目を離す事なく横に寝転がる私の頭を撫でた。
そっ、そんな事で構ってくれないのを許したりしない…!
ひまだひまだ、照れ隠しも含めてそう言いながら畳の上をごろごろと転がると不意に指先に何かが当たる。なんだろうと見てみれば刀の方の薬研だった。
そういえば皆いつも自分の本体は肌身離さず持ってるし、本丸では自室に置いてるらしく刀そのものを触ったことはなかったなぁ…
ちらりと薬研(人)を横目に見ればさっきと変わらず本に夢中で、私の動きには少しも気づいてない。少しくらいなら良いだろうと勝手に触る事に対する葛藤もそこそこに私は薬研(刀)に手を伸ばした。
持ち上げてみて、想像よりもずしりとした重みに驚く。普段から私に甘える事が少ない厚や薬研はともかくとして、五虎退ちゃんや秋田くんもこの重みを感じながら戦っているのかと思うと、なんというか…素直に皆すごいなぁと関心してしまう。
(頑張ってくれてるんだな)
私のために、というのは自惚れかもしれないけれど、勘違いでなければ皆少しは私の事を慕ってくれているのでそんな刀達の主である事をとても嬉しく思う。もちろんそれは薬研に対しても同じで、私は急にこみ上げてきた衝動に抗うことなく彼の本体の鞘部分に口づけた。
「っ!?大将!?」
「へっ!?」
突然呼ばれてびくりと肩が跳ねる。まずい、勝手に触っていたのを怒られるかもしれない。
自分の命とも言える大事な物なのだからそれも当然だろうと、慌てて薬研(刀)を両手で包むように握った。
しっかりと、落としたりしないように
「ぅあっ…!?」
「ごごごごめん!あの、悪戯とかしてないから…!」
「たい、しょ…それ、離してくれ…」
「やっぱり怒ってる…!?」
「いや大丈夫だ、怒ってないか…〜っ!!」
「…薬研?」
どうも様子がおかしい。慌てて薬研(刀)を握ったまま彼に近寄れば、彼の白い肌は桃色に上気して、風邪の症状のように呼吸が荒くなっている。目はうっすらと涙の膜が出来ていて……なんというか、わかりやすく言うとものものすごくえっちぃ。
…いやいやいやいやなんで!?さっきまで普通に本読んでたじゃん!?
急に態度の変わった薬研に慌てながらもさっきまでの事を頭で整理する。なんかあったっけ!?
……そういえば、何で薬研は本に夢中だったのに私が本体を触ってた事に気づいたんだろう。
はたと気づいた疑問にもしかして……と手に持ったままの刀にきゅう、と少しだけ力を込める。
「っ……!」
びくり、薬研が揺れた事で憶測は確信へと変わる。どうやら刀と身体の感覚が繋がっているらしい。
それなら私がちゅーしちゃったのがばれたのも納得できる。今の彼の状態にも。
「こ、ら…名前…!」
「…刀の感覚って、薬研にも伝わるんだね」
熱のこもった顔で名前を呼ばれて、私の中の悪戯心が大きく膨らむのを感じた